小説・お花畑

 

ねえ。あなた。フフフ……、こっちへ来てよ。この赤いお花を見てよ。ねえ素敵なあなた。
本当だ、奇麗だね。まるで君みたいだ
やああだ、あなたったら、ウフウ、ウフフフ。
これは「ブーゲンビリア」っていう花だよ。
あらあなたったら、お花の名前に詳しいね。
ブーゲンビリア花言葉って知ってる? 
知らないわ。
『呪われた死』
いやあだ、あなたったら(女、再び笑う)またそんな冗談言って……。
冗談じゃないよ。ほら、こうして……よく似合うよ。可愛いよ。呪われた死。まさに、君にピッタリな言葉だよ。

このひとは冗談を言っているのかしら? わからないわ。よくこういうこと言う人だから。ほんとみたいな口調で、冗談を言う人だから。呪われた死だなんて、そんな花言葉あるかしら? いいえ、あるはずがないわ。私が何も知らない高卒の事務員だからって、時々こうやって馬鹿にするの。

 男は笑みを浮かべています。女もブーゲンビリヤの花を頭に髪飾りのようにつけて、幸せそうに微笑んでいます。二人の周りには、色とりどりの花々が日差しの下で風に揺れながらあふれるほど咲き誇っているのでした。

(ああ、でも私はこの人のことが好き。ハンサムだし背も高いし、声もかっこいいし……大好きなんだわ。ああ、血が見たい
(あなたの血が見たい
(あなたが血を流すところが見たい
(血を流してもだえ苦しむところが見たい

でも私は、もう四十二歳で
高校しか出ていなくて、あなたみたいに「旧帝国大学」もでていなくて
「ガーベラ」と「マーガレット」の見分けもつかない
愚かな女だから

「僕はね、君のためなら死んでもいいと思っているんだよ」
「本当?」女は照れたようにウフフウフと笑いました。
「私も同じ。あなたのことしか見えない」

やっぱりだめ、私にはあなたを傷つける資格はないみたい
どう思う?
この思いを打ち明けたら、あなたはなんて言うんだろうね
いつもみたいに、君の頭はお花畑だねって、笑ってくれるのかな