公園の子供たち

 小説を書くために必要なもの、それは暗くなったあとでもはしゃぎ声をあげながら遊びまくる子供たちの、あの勤勉さ。部屋の窓から見える公園で、子供たちは熱心に、まさしく勤勉に、遊ぶことに従事していた。
 僕はいつもその光景に感動したものだ。鉄棒と砂場と、ゾウの形の滑り台ぐらいしかないその小さな公園で、彼らは飽くことなく何時間でも遊び続ける。
 ある日、一人の少年は砂場で、その小さな手によって、胸の高さほどもある砂山を築き上げた。

 僕は部屋を出て、公園へと向かった。
 そのとき、子供たちは例によって大声をあげながら、僕にはルールがよくわからない妙な遊びに夢中になっていた。
 僕が近づくのに気づくと、彼らは遊ぶのを中断してみんなして不思議そうな目で僕を見つめた。

 ――こんにちは、と僕。
 ――こんにちは。
 ――君たちに、小説の書き方を教わりに来たんだ。
 ――小説? 何それ。
 ――文字ばっかりで書かれたお話のこと。
 ――『ごんぎつね』みたいなやつ?
 ――まあ、そうだな。
 ――そんなの書いたことないよ。
 ――でも君たちは、毎日暗くなるまで遊ぶし、砂場で山を作るだろう? 小説を書くことも、そういうのと同じだと思うんだ。だから君たちなら……
 ――俺たちは、遊んでいるだけだよ。

 僕は子供たちに礼を言って、公園をあとにした。遊んでいるだけ? 何という格好良い答えだろう! 僕はすぐに部屋に戻って、小説の続きに取りかかった。
 ほどなくして僕は、書き出しの一行に続く、次の一文を書いた。
 それで十分だった。紛れもなくそれは、僕にとって大いなる一歩だった。あの素晴らしい公園の子供たちのおかげだ。
 小説が完成した暁には、その冒頭に、僕は彼らへの献辞を掲げることになるだろう。
 こんな献辞。

   献辞

 君たちにはたくさんの可能性がある。
 狡猾に人を惑わせる、その「可能性」というやつは!
 僕は君たちがいまだその悪魔に魅入られていないことを羨む。
 だからこそ、僕は君たちに伝えたいんだ。あらゆる物事を遊ぶことの大切さ。
 それはもちろん、僕が君たちから教わったことであります。
 でも、まだあまりにも若く、始まったばかりの人生の段階にいる君たちは、その精神をやがて失くしてしまうかもしれないなんて、きっと想像も出来ないだろう。
 僕が何を言ったところで、どうせすぐに忘れてしまうのだろう。
 (僕にしたって、子供の頃に聞かされた校長先生のお話なんて、もはや一語も覚えていないからね)
 遊ぶ精神を失った人々は、どこにでもいる退屈な大人になってしまった。もちろん僕もその一人だ。
 だからこそ僕は伝えたいんだ。