午前5時の笑い声

あの結婚式の男から、窓の話を聞いた後、僕が窓辺で過ごす時間は増えたように思う。そうやってすぐに他人から影響を受けてしまう。でもさすがにまだ、半日窓辺で過ごしたことはない。
この間自分で作った椅子は窓辺で時間を過ごす用途にぴったりではあった。小さくて軽いために持ち運びが容易で、どの窓辺にも持っていくことができる。

ある朝、やけに早く目が覚めたので、家で一番眺めの良い二階の廊下の窓辺に座って、ぼんやりしていた。するとどこからか人の笑い声が聞こえた気がしたので、窓を開けて耳を澄ますと、確かに声はそこにあった。その声は道路を挟んだ向かいの家の、開け放たれた窓から、聞こえてくるようだった。大人の、それもかなり年齢を重ねた男の笑い声だった。老人の声のようにも聞こえる。まるで楽しくてしょうがなくてはしゃいでいるといった調子で、ひとりで大声で笑っていた。テレビか何か見ているのだろうか、そうだとしたら、それはいったいどんな愉快な番組なのだろう。声はそのあと30分ほども続いた。笑い方は機械的なまで一様で、テンションも最後まで落ちなかった。しかし突然途絶えて、そのあとには早朝の静寂が戻ってきた。
向かいの家に住む家族と面識はあったが、声の主に思い当たる人物はなかった。僕がいつもなら眠りこんでいるこの時刻に、いつもあの笑い声は響いていたのだろうか、それとも今日限りのことなのだろうか。何にしてもあの結婚式場で、あの奇妙な男が窓について語るのを聞いていなければ、こんな風に早朝に窓辺で時間を過ごすことはなかったはずで、したがってあの奇妙な笑い声を聞くこともなかった。その事実はなぜか僕を考えこませる。大げさに言って悪しき運命のようなものを感じさせる。できることならあんな異様な笑い声の存在は、知らないままでいたかった。