バイオハザードの犬

帰り道の途中、とあるマンションの前の柵に大きな犬がつながれていた。近づくと犬はすごい形相で激しく吠え、こちらへ向かって襲いかかろうとする動きをした。首につながれたリードが切れそうなほどぴんと伸びている。犬はゲーム『バイオハザード』に出てくるゾンビ犬にそっくりだったので、僕はとりあえず頭を撫でようとしてみたのだが、暴れるのでなかなかできなかった。

そのうちにどこからともなく、やはりゾンビみたいな老人がやって来て、犬の頭をぽんぽんと叩くと、犬はたちまち暴れるのをやめておとなしくなり、狂犬らしさも何もなくなってしまった。僕は老人の手のひらに何か秘密があるのかと思って、そのことを尋ねてみたところ、老人はちょっと不審そうな目つきで僕を見たが、それでも僕に手を見せてくれた。しかしそれは何の変哲もないただの年老いた男の手で、大した秘密もなさそうだったのでやや失望したが、そのことは面に表さないようにしていた。おとなしくなった犬は舌を出して僕のことを見上げていたので、僕はあらためて犬の頭を撫でようとしたところ、犬は特に抵抗するでもなく僕の手を受け入れ、再び豹変して暴れだすこともなく、ただしゃがんでじっとしていた。

そのあと老人は犬を連れてどこかへ帰っていった。何だか白日夢のような経験だった。