旅行

旅行記5 ホテルの部屋に現れたもの

夜中、ホテルの部屋の隅の暗がりに泡のような物体が出現した。それはふわふわと揺れながら空間を漂い、だんだん膨張していった。はじめはリンゴほどの大きさだったのに、やがて部屋の半分近くを塞ぐほどにまで巨大化した。そして観葉植物の尖った葉先に触れ…

旅行記4 老腹話術師

林の中の一本道を、レンタル自転車で走っていたところ、タイヤがパンクしてしまい、しかも雨まで降りだした。弱り果てて歩いていると、道端に一軒の家を見つけた。古い木造の家屋は、あたりには草木がものすごく生い茂っていて、それに屋根まで覆われている…

旅行記3 風車のある草原

晴れた午後、僕は風車のある草原にいた。着飾ったご婦人がハンモックに揺られて昼寝をしていて、子供たちはシャボン玉を飛ばして遊んでいる。そして僕の近くには、首輪を紐で木の幹に繋がれた、一頭の山羊がいた。 どうしてこんなところに山羊がいるのだろう…

旅行記2 虹色チョコ

何の変哲もない板チョコレートに、クリームがたっぷりとかかっているのだが、そのクリームは文字通り虹色をしていた。いや、虹よりもっと多くの種類の色が、まだらに輝きながらチョコレートを包んでいるのだった。あまりに美しく、最初見たとき僕はしばらく…

旅行記1 湖の怪

旅先の土地には大きな湖があり、ボートが一艘浮かんでいた。一人の男がいて、いかにも土地の者らしい身なりをしていたので、僕は彼に、どうしてこんなに人けがないのか、と尋ねたところ、男は意味がわからないという顔をして、このあたりが人でにぎわうなん…