2022-11-01から1ヶ月間の記事一覧

廃病院の灯

丘の上の病院が閉鎖されてずいぶん経つ。病棟は取り壊されることもなく放置され、いまでは廃墟のようになっている。夜中の2時とか3時にその建物を眺めていると、最上階の端から2番目の窓に、明かりが灯ることがあった。入院患者はすべて別の病院に移送された…

この風景は、今はありません。

画面左のマンションは取り壊されてなくなりました。今はその場所はスーパーマーケットになっています。ところで私は、なくなったあのマンションがとても好きでした。ひどく古びて、住人もほとんどいなくて、取り壊されて当然の、救いのないマンションだった…

音楽アルバムを作りました。『場面』

アルバムを作ったそれは『場面』と名付けられました。アルバムは8曲からなる。 1. 犬小屋 03:092. 床 02:123. 戸 03:434. 机 01:045. 階段 03:066. 壁 02:347. 電話機 02:348. 煙突 03:46 すべてはAudacityによって作曲された。 私はbandcampでそれを公開し…

煙突

ある日僕は自分が住む町に煙突のある家が何軒あるのか、知りたいと思った。それで探しながらあちこち歩きまわったのですが、煙突がある家はたったの一軒だけでした。しかしその家は空き家であったし、そのうえ銀色のアルミ製の煙突は、根元あたりでぼっきり…

電話機

家の近所の坂道のふもとに、小さなアパートがあるのですが、僕は通りかかるたびに、いつもその二階の一室に視線を向けてしまいます。その部屋の窓はいつも開け放たれていて、坂道の中腹からだと、室内のかなりの部分が見渡せるのです。その部屋はひどく散ら…

壁を見つめていました。壁は影によって斜めに分断されていました。やがてのっぺりしたその白い表面に、虹色の模様が描き出されました。模様は壁の全体を覆いながら、まるで逆流する流砂のように、床から上へ向かって流れる動きを作り出しています。私はベッ…

階段

デパートをうろついていると地下へ続く階段を見つけました。私はその階段を降りはじめましたが、するととつぜん背後から声を掛けられ、そっちは立ち入り禁止だとその声は告げます。振り向くとそこにはデパートの職員らしき女性がいました。女はいかにも不審…

私はいつも使っている机を横断しました。その大きな、広大な、幅200cmもある机(それはシングル・ベッドと同じサイズをしているのです!)にのっかり、いつも椅子を置いているほうとは反対側へ、まるで太平洋を泳いで横断するような覚悟で乗り越え、机の反対…

納屋の入り口の戸は記憶にある限り一度も開けたことのないただの戸です。僕がそれを開けないのは無意味だからです。納屋は古く、壁はほとんど崩れていて、だから僕がいつも納屋に出入りするときには、その壁に開いた穴をくぐるのです。そっちのほうが早いし…

畳の床にはさまざまな模様や色が浮かびます。ときにそれは思いもよらない複雑な、無軌道な絵を描き出します。なぜそんなことが起こるのかは不明です。季節や天候、時間帯や曜日、気温や風向き、おそらくそうした要素が影響しているのでしょう。何にしても私…

犬小屋

近所の家に、きらびやかな毛並みをした綺麗なゴールデンレトリバーがいました。いつも僕が家の前を通りかかると、犬は伏せた姿勢から首だけをあげて、こちらをじっと見つめました。その瞳は水色で真ん丸で、きらきらしていて、まるで今作られたばかりのビー…

妻の考えと意見

ユイが小学生になったら、私も少し働こうかな、と妻が言った。聞くところによると妻の友人が運送会社の事務のパートをやっているのだが人手が足りなくなって妻は誘われたらしい。いいんじゃないかな、ケイの面倒は僕がみることだってできるからね。と僕は言…

突如襲う倦怠

とあるピアノ協奏曲を聴いているとき、突然その曲に飽きた。飽きただけでなくほとんど嫌悪感を覚えた。どうしてこんなつまらないものをありがたがって聴いていたのだろう、と思った。あと数分で終わるところだったので、再生を止めることはしなかったけれど…

ナナタンの涙

それはまたしても意図せざる遭遇だった。一人で車に乗っていたとき、信号待ちのときにいきなり誰かが後部座席のドアを開けて車に乗り込んできたのだった。僕は最初何が起こったのかわからず一瞬呼吸が止まったようになり、おそるおそる振り向くと、そこにナ…

Cyrodiilに帰る

今日は久しぶりにCyrodiilに帰りました。そうだ、『The Elder Scrolls IV: Oblivion』を遊ぶことは、まさしくCyrodiilに帰るという感じなのです。『Oblivion』に没頭していた時期、僕は実際にその世界を生きていたように思いますた。Cyrodiilの空気を呼吸し…

変な硬貨

子供のころ、デパートの屋上で見知らぬ大人から硬貨をもらったことがあります。それは見たことのない硬貨でした。直径2センチ、十円玉と同じほどの厚みと大きさで大きさの割に妙な重みがある。色は眩い輝くような銀色をしており、ぱっと見はとても綺麗でした…

ゲームセンターにて

僕は子供たちとゲーム・センターにいた。妻は一人で洋服屋で服を選んでいて、その間僕は子供たちをフロアの端にある狭いゲームセンターに連れてきたのだった。子供たちはクレーンゲームで遊んでいた。ひどく欲しいキャラクターのぬいぐるみがあるらしく、二…

ある夢(燃える男)

夢をみた。男が道端で火に包まれて燃えていた。燃えながら男は踊るような動きをしていた。もちろん本当は踊っているのではなく、熱さと苦痛のために身をよじらせているのだ。通りかかる人々はどういうわけかその男に関わろうとしない。助けようともせず、救…

ある休日・2

日曜日は曇っていて、風が強かった。そういう天候は変に気分を躍らせる。僕は朝食と掃除と洗濯を終えると、午前中は集中して仕事を行った。午後、ブログを書こうと思ってブログの管理画面を開いたところ、通知が届いていて、クリックするとあるブログ記事に…

ある休日

子供たちの学校や幼稚園が長期の休みに入ると、妻はときどき子供たちを連れて実家に帰る。それで3月のある日、いつものように妻と子供はそうやって宇部の実家へ帰り、僕は一人で家に取り残された。家族が不在のその2日間を僕は休日にした。自分一人だけで過…