2021-12-01から1ヶ月間の記事一覧

嵐の午後の音楽

黒くて小さな物体が、すごい早さで窓の外を横切っていった。あまりに早すぎて何だったのかもわからない。強風がいろんなものを吹き飛ばしているのだ。山のそばに建つ、引っ越してきたばかりの古い家ではじめて体験する嵐は怖ろしかったが、僕はどこかそんな…

海底都市の魚

倒壊した建物群の隙間を走る街路にはあちこち大穴が開き、看板や標識の文字は薄れて読み取ることもできない。折れたマストや錆びた鉄の塊、生き物の骨やジュラルミンの欠片などといったがらくたが、いたるところに転がっている。尖塔のてっぺんに嵌め込まれ…

最後のピラフの件

日曜日の午後のことだった。自分で作ったピラフを食べる途中に突然食欲が完全に失せた。ひどくまずい、と思った。どうしようもなく、吐き気を催させるほどに不味いと思った。僕は手にしていたスプーンを叩きつけるように皿の上に落とし、テーブルに肘をつい…

鳴き声

窓辺に立っていると鳴き声が聞こえた。ピ、ピ、ピ、ピ、ピと高さの異なる二つの音を交互に繰り返す鳴き声。しばらくすると別の方向から同じ鳴き声が聞こえてきた。でもそっちの鳴き声は、最初に聞こえてきたほうと比べるとずいぶんたどたどしくて、何度もつ…

ドアの外に立っていた男

ある日ドアを開けると男が立っていた。背が低くまるまる肥った、醜悪な風貌の男だった。いつからそこにいたかはわからない。そしてどうしてインターフォンを鳴らさないのか、それとも今ちょうど鳴らすところだったのだろうか?僕はその男に見覚えがあった。…

ある寒い国のバーにて

暖かさを求めて飛び込んだバーはどこか寂しかった。集まった客たちも、バーデンダーさえも、みな寂しげな目つきをしていた。僕はカウンターに肘をついてウォトカをちびちびと飲んでいた。そんなものが飲みたかったわけではないが、ウォトカのほかには置いて…

納屋から物がなくなる

納屋に入るたびに物がなくなっている。それは気のせいではなかった。確かに物は減っている。今日久しぶりに自転車に乗ろうとして、それがどこにも見当たらなかったことで、僕はそのことを確信した。あるはずの物が見当たらないということはこれまでにもあっ…