2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

陽だまりの幽霊

アパートは廃墟のような古びたビルと隣り合っていた。窓から手を伸ばすとその黒ずんだ灰色の壁に触れることができた。日当たりはもちろんすこぶる悪い。この街ではそうした住環境は珍しくなかったし、僕には部屋を選り好みできる余裕がなかった。何も考えた…

悪は滅ぼさなければならない。手始めに僕は鴉を殺すことにした。 エミエの髪の毛のように真っ黒な鴉は言ったものだ。≪虚無を充填したまえ≫。つまりそんな風に聞こえる声で鳴いた。 エミエ、死んでしまった恋人。そして憎むべきあの黒い鳥は、電線の上にどう…

『ジャンピングフラッシュ!』に捧げる詩

尖った屋根の先端も、細い切れそうなロープも、わずかなポリゴンの出っ張りでさえも、おかまいなしに足場にしながら、騒がしくカラフルなフィールドを飛び跳ねるとき、僕は着地と跳躍の申し子になった気分だった。 浮上と落下の反復が生みだすリズムが、僕の…

女の幻

毎日違う女が家にやってくる。髪の長い女、日焼けした女、ひどく肥った女。若い女、それほど若くない女。彼女たちに共通していることは一様に質量を持たないこと。幽霊のように、ホログラムのようにスカスカで重みをもたない。 僕は目くるめく女たちの来訪を…

公園の子供たち

小説を書くために必要なもの、それは暗くなったあとでもはしゃぎ声をあげながら遊びまくる子供たちの、あの勤勉さ。部屋の窓から見える公園で、子供たちは熱心に、まさしく勤勉に、遊ぶことに従事していた。 僕はいつもその光景に感動したものだ。鉄棒と砂場…

小説・お花畑

ねえ。あなた。フフフ……、こっちへ来てよ。この赤いお花を見てよ。ねえ素敵なあなた。本当だ、奇麗だね。まるで君みたいだやああだ、あなたったら、ウフウ、ウフフフ。これは「ブーゲンビリア」っていう花だよ。あらあなたったら、お花の名前に詳しいね。ブ…