2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

憐みの天使

1. 銀色のポルシェ 2. 僕の不調 3. 憐れみの天使 1. 銀色のポルシェ ある日僕はマンションの駐車場に銀色のポルシェが入ってくるのを目にした。ベランダでぼんやりしていたときのことだった。部屋の真下がちょうど駐車場なのだ。僕は柵から身を乗り出してポ…

小さな光

夜、引っ越してきたばかりの街を散歩していた。ひたすら高いところを目指して歩いた。階段や坂道を見つけるたびに登り、そしてついにこれ以上高くは登れないという地点に到達したとき、もう夜中だった。 僕はそのちょっとした丘の頂上から景色を眺めた。大き…

喪失についての悲しい歌

ずっと昔、まだ小さいころ、僕は山口県萩市に住んでいた。そのころ近所に住んでいた男の子と仲が良かった。(彼の名前は忘れてしまった。)彼とはよく「ニュースキャスターごっこ」をした。テレビのキャスターが、手元のニュース原稿を音を立ててめくったり…

ミツバとバジル君

今ミツバが手にしている小瓶の中には森の魔女に作ってもらった媚薬が入っている。彼女はそれを大好きなバジル君に飲ませるつもりでいる。それを飲ませてしまえば、彼の心は自分のものになる。彼女はそう信じていた。 ミツバは放課後にバジル君がよく川に釣り…

スピッツ『青い車』に寄せて

午後、マンションの一室。男は窓から外を見下ろしていた。まるで景色の中に何かひどく興味深いものを見出したかのように、ある一点を凝視している。さっきからヘリコプターが上空を飛んでいるらしく、プロペラの音が絶えず響いていた。 すぐそばにはベッドが…

午後の水晶

晴れた午後に、部屋の片隅でひとりで水槽を眺めるのは楽しい。海の底に一人でいるような気分になる。かつてこの水槽の中では魚たちが泳いでいた。宝石みたいに綺麗な小さな熱帯魚。どことなく窮屈そうだった彼ら。いつの間にかいなくなってしまった。そう、…

お化けメルセデス 

昔ある商業施設で夜警のアルバイトをしていたとき、警備室に防犯カメラのモニターがあったのだが、そのうちの一つ、地下の駐車場を映すモニターに、ときどき変なものが映った。それは一台の真っ白なメルセデス・ベンツで、いつも正確に同じ時刻、午前4時32分…

不快な生き物

その生き物は犬にも猫にもタヌキにも似ていた。そのいずれにも見えて、そのいずれとも異なる特徴を備えてもいた。いつからか、そんなわけのわからない生き物が、町の中央にある広場にすみついていた。種族も分類も不明だったが、広場に集う人々は、そんなこ…

隠者

町はずれの森の奥に隠者が住んでいる。自分で建てた小さな家で一人で暮らしているらしい。 隠者とはいっても完全に社会とのかかわりを断っているわけではなく、ときどき町に出てきてスーパーや家電量販店で買い物する姿が見られるし、家はもちろん不動産登記…

勿忘草

植物の名前を冠した小さな曲。弾こうと思えば指一本でも弾けてしまう。何しろ全部で4つしか音がない。その4つをひたすら何度も延々と繰り返す。それだけの曲。繰り返す回数は奏者にゆだねられている。一度だけでやめてもいいし、もしそうしたいのなら、48時…

魔法使いの木

ただの枯れ木だと思っていた庭の木が最近、急に実をつけるようになった。そしてその実は明らかに普通ではない。形も色も味も異なるいろんな実が、何種類も、季節を問わず一年中実をつけるのだ。「実」というものは丸い形をしているものだと僕は考えていたの…

奇妙な盗賊団

街はずれにある洞窟に盗賊団が潜んでいるという噂が町に広まった。子供たちが洞窟に出入りする怪しげな集団を見たと主張したことが噂の発端だった。目撃した子供たちの話では盗賊団は10人から15人ほどの集団で、いずれも真っ黒な衣服に全身を包み、影のよう…

風車と呼ばれた猫

猫はかざぐるまともふうしゃとも、あるいはさらに縮めてカゼとかフウとか呼ばれたりしていた。一日の大半を風のように気ままに過ごしあちこちをさ迷う文字通りの神出鬼没の猫である。八百屋の店先に突如として現れたかと思うと、その数十秒後には4キロ離れた…

何もない部屋

春休みに入ったばかり、部屋はいつものようにがらんとしている。物は何もない。窓がひとつあるだけ。でもカーテンはかかっていない。必要ないのだ。ここは何にも使われていない部屋。でも開かずの部屋というわけではなく、ドアを通じていつでも出入りできる…

彼女の遺伝

1. 出会い 2. 交際 3. プロポーズ👰 4. 小旅行 5. その後 1. 出会い 帰りの電車で毎日のようにその女性と出くわした。そして僕は見かけるたびにその女性をいつも目で追ってしまっていた。彼女がひどく醜かったから。ちょっとぎょっとするほどに醜かった。間違…

春の瞼

ぼろぼろの身体を引きずって、険しい坂道をついに登り切ったとき、ある眩い色彩が両目を、槍のように貫いた。それは彼方に広がる海の色だった。突如として眼前に出現した海は不自然なほど青く、見つめるうちにさらにその青みを増していった。僕は思わず神を…

グランディディエリの森

グランディディエリの森 - ゲーム『ファイナルファンタジー Vlll』に出てくる地名 深い森を抜けてようやく開けた場所に出た。柔らかそうな草地の上に明るい日差しがいっぱいに降り注いでいる。チョコボたちが何匹か草むらの上にしゃがんで、日向ぼっこをして…

ゲームへの愛

いい年してゲームをしない大人はろくなものではない。時間の無駄だと人は言うが、ゲームより無駄な時間の使い方はほかに山ほどある。そのことは僕はよく知っている。何しろこれまで僕はこれまで多くの時間を無駄にしてきた。僕は油断するとすぐにくだらない…