2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

窓に消えた亡霊

かつて僕は山のふもとに立つ古い家に一人で暮らしていた。その家には幽霊が出た。それまで僕は、幽霊と出くわした経験を一度も持たなかったので、はじめてその二つのぼんやりとした人影を目にしたときには、本来であればもっと驚き、もっと取り乱していても…

金色の瞳

朝早く、長く黒い髪の毛を揺らし、黒い肌にそよ風を受け止めながら、少女はゆっくりと、軽快な足取りで森の小道を歩いていました。久しぶりに会う恋人のことを思いながら、その二つの目はキラキラと明るく輝いていました。少女は薄い金色を帯びた美しい瞳を…

禁じられた場所

建物の位置関係のために、一日に一度も日が差さない一角。面積にして10㎡、直角三角形のような形をしたその地帯は、街の住民から禁じられた場所と呼ばれている。人々は滅多にその一角に足を踏み入れない。基本的には近寄ることもない。その影の中に入るとた…

音のない小部屋で

その男は白い小部屋に閉じ込められて毎日24時間、ひっきりなしに音を浴びせられながら過ごし、狂気に陥らなかった唯一の被験者だった。同じ環境に置かれた被験者たちはみなすぐに精神に異常をきたし、妙な言動を発したり、暴れまわったり、胸や首を血が出る…

訪問者

当時、僕は大学生だった。ある日アパートで机に向かってレポートを書いていると、インターフォンが鳴った。立ち上がって玄関へ行き、ドアから魚眼レンズを覗いてみたところ、廊下には誰の姿もなかった。不可解ではあるが、こういうことは意外によくある。だ…

雨のブラックホール

雨の午後、ベランダにブラックホールが出ていた。ソフトボールほどのサイズの小型のもので、雨粒はみんなそのブラックホールに吸い込まれてしまって、だからコンクリートの地面は全く濡れていなかった。空から真っ直ぐ降り注ぐ雨は、地面の近くで急に折れ曲…

パウル・クレーのある部屋

帰宅して一通りやるべきことを終えると、カイトは壁に掛けた絵を眺める。それはパウル・クレーの絵画、かつて彼が自分で模写したもの。彼は毎日その絵を眺めながら頭の中で想像で別の絵を描いた。そのことは彼の一日の楽しみだった。毎日異なるアイデアが浮…