2024-01-01から1年間の記事一覧
屋根裏部屋に入ると、頭に角を生やした、赤ん坊みたいな形の黒い悪魔がいて、細長いパイプのようなものを口にくわえながら、段ボールの上で足を組んで座っていた。僕は幻覚だと思い、いったんドアを閉じて部屋の外に出て、数分ほど目を閉じてじっとして待っ…
大好きな『シャーロック・ホームズの冒険』を読み返したくなり、本棚を探したのだが、なかった。部屋中を探してもなかった。それはずっと昔に古本屋で買って何度も繰り返して読んだ大好きな本である。だから失くすなんて考えられない。それならどこにやった…
以前に住んでいたアパートでは夜中によく外の廊下から足音が聞こえた。安普請だったから、夜中に物音が響くことは珍しいことではなかったのだが、その足音はどこか変だった。それはどこかへ向かおうという意思を感じさせない足音だった。誰かが、まるで靴の…
離れて暮らしていた父が死んだという連絡が警察からあり、僕が遺品の整理を行うことになった。代行業者に頼むこともできたのに、なぜそれを自分でやろうと思ったのか、我ながらよくわからない。僕と父とは、もう何十年も絶縁状態にあり、いまではもう父がど…
昔ある運送会社でアルバイトしていたときに、やたらに顔が丸い同僚がいた。ある日その丸顔の彼が、なんだか普段とは少し様子が違って見えた。丸い顔が普段よりさらに丸く、身長や手足が、普段よりわずかに長い気がする。人柄も普段より明るく、それでいて動…
ちょっとしたいざこざから刃物で胸を傷つけられて、傷口から心臓がむき出しになった。初めて自分の心臓を自分の目で見て知ったのだが、心臓は光っていた。白っぽい光をまばゆいほどに放っていた。おかげで眩しくて眠ることもできない。でもそれは力強く美し…
夜の路上で血まみれで倒れている女を見つけた。女は笑っていた、大きな口を開けて、不自然なほど愉快そうに、楽しそうに。女はよく見ると、知っている人に似ている気がして、僕はつい足を止めて見てしまう。信じられないほどたくさんの血が彼女の身体を覆っ…
ビルの陰からいきなり現れた大きな紫色の物体、それはイルカだった、都市の真ん中で出くわしたイルカは、どこかテカテカした金属めいた光沢をたたえていて、本当に鉄でできていたのかもしれないけれども、そうだとしても驚かない、なぜなら都会というのは、…
激しい雨の中、僕はバス停の屋根の下でベンチに腰掛けていたが、あとからやってきたその男は、座らずに立っていた。しばらくして、すぐそばからゴリゴリという音が聞こえてきた。顔を上げると男が、右手に持ったのこぎりのような道具を自らの左手の手首にあ…
ずっと何年も地下に閉じこもって生活していたから、久しぶりに外に出たとき、眩しくて眩暈がした。空は青く晴れ渡り、太陽はぎらぎらと輝き、日陰の色は異様に濃く、まぎれもない夏だった。僕は眩暈と頭痛に耐えながら、身体を引きずるようにして、近くの道…