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屋根裏の黒い悪魔

屋根裏部屋に入ると、頭に角を生やした、赤ん坊みたいな形の黒い悪魔がいて、細長いパイプのようなものを口にくわえながら、段ボールの上で足を組んで座っていた。僕は幻覚だと思い、いったんドアを閉じて部屋の外に出て、数分ほど目を閉じてじっとして待っ…

好きな本がなくなっていた

大好きな『シャーロック・ホームズの冒険』を読み返したくなり、本棚を探したのだが、なかった。部屋中を探してもなかった。それはずっと昔に古本屋で買って何度も繰り返して読んだ大好きな本である。だから失くすなんて考えられない。それならどこにやった…

確かに誰かがその時間に廊下を歩いていた

以前に住んでいたアパートでは夜中によく外の廊下から足音が聞こえた。安普請だったから、夜中に物音が響くことは珍しいことではなかったのだが、その足音はどこか変だった。それはどこかへ向かおうという意思を感じさせない足音だった。誰かが、まるで靴の…

死んだ父

離れて暮らしていた父が死んだという連絡が警察からあり、僕が遺品の整理を行うことになった。代行業者に頼むこともできたのに、なぜそれを自分でやろうと思ったのか、我ながらよくわからない。僕と父とは、もう何十年も絶縁状態にあり、いまではもう父がど…

ある同僚の思い出

昔ある運送会社でアルバイトしていたときに、やたらに顔が丸い同僚がいた。ある日その丸顔の彼が、なんだか普段とは少し様子が違って見えた。丸い顔が普段よりさらに丸く、身長や手足が、普段よりわずかに長い気がする。人柄も普段より明るく、それでいて動…