2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

不眠/走ること

3か月ほど前から不眠ぎみになって、夜中に何度も目が覚めたり、明け方に起きてそのまま眠れなくなったりするようになって、それで早朝に走るようになった。それで知ったのだが走るのは楽しい。こんなに楽しいとは思わなかった。歩くのより何倍もよい。歩くの…

白い丘

女が丘の頂上の階段に腰かけて一人で歌っている。無伴奏の儚いメロディー。曇った灰色の空の下、赤いワンピースが風にはためき、彼方には空と同じ色の海が広がって、波が静かに打ち寄せ散ている。海と女を同時に映すその画面にスタッフロールが重なり、映画…

魔物に乗って野を駆ける人

荒涼とした土地に一人きり、魔物にまたがって進みながら、何度も似たような孤独を味わった。雪道で、トンネルで、山奥で、暗い白夜の土地で……。荒涼であるがゆえに、寂しいがゆえに、ある快さを呼び覚ます景色が存在する。旅の過程でバドはそのことを学んだ…

サモア

午後になると風はろくに吹かず、島は淀んだような熱気に包まれる。森の奥で一人の少女が笛を吹いていた。祖父が彼女のために作ってくれた、竹でできた横笛だった。鳥の鳴き声を真似た短い旋律を何度も繰り返している。少女にとって鳥は友人であり、音楽の先…

本に挟まっていた古い(夏の)レシート

ページをめくったとき、紙切れが足元に落ちた。拾いあげてみると古いレシートだった。『2007年8月31日14時29分』と日付が印字されている。確かに僕は14年前のその日、そのカフェでアイスコーヒーを飲んだ。その日のことを僕はすぐに思い出した。記憶は不思議…

祭囃子

タロウはときどき腰をかがめて、砂の上に転がっている透明な石を拾い上げる。それは波によって削られて角の取れたガラスの破片、いわゆるガラス石だった。海岸に来るたびに彼はガラス石を拾って持ち帰るのだ。この砂浜には実に多様な色と形のガラス石が落ち…