2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

住んでいるところ 紹介

僕が今住んでいるのは、下関市の西部の町で、かつてはそれなりに多くの人々が暮らしていたのだが、数年前、正確には2015年の春のことだが、町の端の小さな山に<ある存在>が住みついたことが原因で、住人が次々と町を離れるようになり、そのため人口は当時…

アポリネール詩集

水たまりに落ちていた一冊の本。捨てられた動物みたいに、助けを求めている気がして、つい手に取ってしまった。それをずっと持って歩いていたので、帰宅するまで指先は濡れたままだった。本を物干し竿に吊るして干した。この暑さのことなので、明日には乾く…

古い波乗りの記録

海辺の寂れたレストランでハンバーガーを食べた後、椅子に座って海を眺めながらぼうっとしていると、店主が寄って来て、話しかけてきた。「あんたはもしかして、フミオの家族じゃないか。その名前に聞き覚えはない。僕は否定した。店主は微笑み、悪いね、と…

呪われた僕の子供に

母体を脱してすぐ、ほとんど泣くこともなく目を見開き、あちこち視線をさまよわせていた。それは人が何かを思い出そうとするときの目つきに似ていた。彼は覚えているのかもしれない、かつて自分がいた場所のこと、生まれる以前に自分が属していた世界のこと…

公園で

公園で女がブランコで遊んでいた。マシュマロみたいに肥っていて、どう見ても一人でブランコで遊ぶのが似合うような年齢の女ではなかった。つまり子供ではなかった。しかも女はときどき一人で声をあげて笑ったりした。彼女の重い身体を乗せたブランコの金具…

電車に乗って遠くへ

とにかくイライラしていたので、旅に出ようと思った。するとその次の瞬間には、僕は電車の座席に座っていた。駅に行って乗車券を購入したり改札をくぐったりした記憶がない。考えてみれば怖ろしいことだが、気にしないことにした。窓の外の景色はすでに見慣…

変な知らない女に声を掛けられる

お店の入り口をくぐろうとしたとき、そばに立っていた女に声を掛けられた。女は僕に、簡単な質問に答えなければ入店できない、と言った。その時点で立ち去ってしまえばよかったのだが、僕はそうしなかった。ほんのわずかに僕は興味を覚えてしまい、つい女の…

あるお洒落なパスタ屋

あるお洒落なパスタ屋に入ると、店内の客たちが一斉に僕のほうを見た。それもちらと見るのではなく、じろじろと、まじまじと、無遠慮に。僕は気にしないふりをしていたが、それは成功しなかった。動作はひどくぎくしゃくするし、店員に注文を伝えるときには…