Ultra Street Fighter IV

雪の降る操車場 (Snowy Rail Yard)

長くとどまっていた貨物列車が、ようやく走り去った。音を立てないようにそろそろと金網を乗り越え、ゆっくりと線路に近づく。そしていつものように、レールに頭を預けて線路と直角に横になった。ひどく寒い夜なのに不思議なほど寒さを感じない。首筋に触れ…

溶鉱炉 (Blast Furnace)

海沿いの埋立地に広がる製鉄所。巨大な煙突から黒い煙が立ち上って雲を塗りつぶしている。倉庫の中には鉄鉱石が山のように積まれていた。その中に一匹の蟻が紛れ込んでいる。助けて!ここから出して。蟻はそんなことを叫んでいたが、その声は、無数の大多数…

古寺のお祭り (Festival At The Old Temple)

かつて僕が住んでいた町には古い寺があって、そこでは秋になるとお祭りが開かれていた。そのお祭りには人間ではないものも参加しているのだと、主に地元の子供たちの間では信じられていた。幽霊やお化け、精霊や妖精、土地に宿るそうした不思議な存在もひそ…

内陸ジャングル (Inland Jungle)

真っ黒に焼けた手がしおれた花を握りつぶす。いったい誰の手なのだろうと、しばし戸惑う。残念ながら、それは紛れもなく僕の手だった。ジャングルは暗く静まり返っている。何か恐ろしいことが起こる前触れのような静けさだった。なぜ自分はこんなところにい…

陸橋 (Overpass)

陸橋の下にある公園は、サッカーでもできそうなほど広いが、それほど殺風景な場所もなかった。遊具らしきものはひとつもなく、橋が遮って日が差さないためにいつまで経っても干上がることのない水たまりがいくつかある。そしてあちこちに転がる不法投棄のが…

日食(Solar Eclipse)

さきほどまでの暴風が嘘のように、地表は今静けさに包まれている。あたりは夜のように暗いが、まだ夜ではない。日食が生じているのだ。太陽が月と重なり、空の浮かぶ黒い円の縁から金色の光が漏れている。いまも地面はときどき大きく揺れた。水辺の陸地に一…

夜のドライヴ・インにて (Drive-in At Night)

今日はレジ受け業務。雨の夜、意外なほどドライヴ・インはにぎわっていたが、たぶん誰も映画なんか見ちゃいないんだろう。車の中に閉じこもって客どもは飲んだり食べたり、とにかく好き放題やってるってわけだ。何しろ退屈な映画なのだ。車がバシャバシャと…

小さな飛行場 (Small Airfield)

降り立った飛行場は荒野の真ん中だった。タラップを降りてあたりを見渡した時、まるで小人になって広い砂場に放り出されたみたいな気がした。のっぺりした黄土色の大地が広がり、彼方には灰色の山脈が連なっている。そのあまりに広大で大雑把な景色は距離感…

クルーズ船の船尾 (Cruise Ship Stern)

オランダ人の老婆はさっきからしつこいほど何度もプールを往復している。海には虹がかかり、柵に腰かけた夫婦やカップルたちはみな語りあいながら景色を眺めていた。子供たちは船と並んで泳ぐエイの群れに向けてお菓子を投げ与えている。僕はチェアに寝そべ…

109の駐車場 (The Pitstop 109)

あんなのは絶滅したと思っていた。昔懐かしいガングロギャルとかいうやつだ。今日の午後駐車場ですれ違ったのはまぎれもなく当時のままのガングロギャルだった。ああ、あの世紀末の日本社会に、突如生じた異常な現象。その女は短いスカートから伸びる日焼け…

崩れかけの研究所 (Crumbling Laboratory)

(ひみつ研究所の続き) 壁が揺れ地面が波打つ。それでも男は目を覚まさない。寝室の床にへばりつくように横たわり、両腕を抱き込んだ胎児のような姿勢で、穏やかな寝息を立てながらひたすら眠り続けていた。いつもとは違ってその眠りは安らかだった。口元に…

ひみつ研究所 (Secret Laboratory)

彼は自宅兼研究所にこもりきりになってある薬の開発とそのための研究に没頭していた。彼が目指していたのはまったく新しい睡眠導入剤の実現である。服用するとたちまち眠りに落ち、そのまま死ぬまで目を覚まさない。眠ったまま生体は老化し、そしてしかるべ…

火山の縁 (Volcanic Rim)

島の中央には標高395メートルの火山がでんとそびえていて、その山と海に挟まれた細長い土地に町があった。町にはちゃんとした名前があったのだが、いつしか「火山の縁」という俗称で呼ばれるようになった。陰気な町だった。どこもかしこも、それこそ灰を被っ…

廃寺 (Deserted Temple)

砂埃が風に舞い、小さな墓に吹きつけている。粗末な木切れによって作られたその墓は、息子が死んだカエルのために建てた墓だった。もっともそのカエルは、息子が飼育していたわけではなく、廃寺の片隅で無残に息絶えていた、見ず知らずのカエルである。息子…

入り江の霧の朝 (Morning Mist Bay)

朝早く、海に浮かぶボートの上で一人の男が釣りをしていた。水平線の彼方から差し込む朝日が、入り江に少しずつ色を加えていった。糸が引っ張られ、男はすかさずリールを回す。釣られた魚はしぶきを飛び散らせながら、みずみずしい銀と青のうろこをきらめか…

真っ黒ジャングル (Pitch-black Jungle)

取材で訪れた南米のある土地で、不思議な石の話を聞いた。僕にその石について教えてくれたのは付近の村に住む老人だった。その老人は90を超える高齢だったが、ずいぶんちゃんとした英語を話し、その言葉つきや、眼光の鋭さは、他の村人とは異なる際立った知…

荒れ果てた路地裏 (Run-down Back Alley)

犬はさっきから、ぴくりとも動かない。片隅の暗がりで黒い袋みたいにじっと横たわっている。電線に並んだ鴉の群れがそのさまを無言で見下ろしていた。酒場の前で二人の男が口論をしている。同じような薄汚れた格好をした二人の男が、口汚い言葉でお互いを罵…

半円筒 (Half-Pipe)

ああ!滑りだすとそのまま風になる。風とひとつになる。風としてオイラは宙を舞い、流れるつまりは重力から自由になる。 天地が逆転する。景色がぐるぐる回る。逆さまの状態で静止してみたい。これよりすごい喜びってない。足の下に空を眺めるときの。 みんなの…

白熱する路地 (Exciting Street Scene)

第4地区と都心部とをつなぐ全ての道路が封鎖された。その措置により区画は都市から切り離されてしまった。大多数の市民の安全と利益を保護するために、第4地区は犠牲になったのだ。市長による演説がテレビとインターネットを通じて中継された。市長は該当の…

きれいな入り江 (Beautiful Bay)

岩礁に丸く取り囲まれたその小さな入り江は、静かで落ち着ける場所だった。僕は水面に仰向けに浮かびながら、午後じゅうずっと空を見ていた。空を流れてゆく雲の形や色合いは、一瞬ごとに変化していた。雲がそんなに激しく変容を繰り返すものだとは知らなか…

にぎわう下町 (Crowded Downtown)

大晦日、僕は料理の材料の買い出しに出かけた。人であふれかえる午後の商店街はにぎやかで、それでいてどこか寂しげな雰囲気があった。それは一年のうちに大晦日にだけ感じられる空気だった。僕はあちこちの店を回って食材を購入した。 喫茶店で一休みしてか…

古い寺 (Old Temple)

風のない静かな午後、女が縁側に腰かけて歌っている。悲鳴みたいな歌声が、無人の境内に響きわたる。女の視線は目の前の松の木を見据たままさっきからまったく動かない。瞬きさえしない。同じ旋律が何度も繰り返されていた。古い寺には誰もやってこない。そ…

ジュラ紀研究施設 (Jurassic Era Research Facility)

ジュラ紀研究施設にはジュラ紀の風景をそのまま再現する設備がある。そこではアロサウルスやイグアノドンが大地を駆けまわり、空には始祖鳥。しょっちゅう博覧会などで骨が展示されるような有名な恐竜ばかりではなく、誰も知らない地味で小さい恐竜までちゃ…

歴史のある蒸留所 (Historic Distillery)

そのウィスキーは独特な味がした。甘味の中に舌をちくちく刺すような鋭い苦みがあって、でもなぜかその苦さが不愉快ではない。ひたすら飲み続けていると、だんだん頭の中である映像が実を結びはじめた。青くキラキラと輝く曲がりくねった模様が浮かんだ。僕…

宇宙エレベータ (Cosmic Elevator)

宇宙センター内には巨大な透明の円筒型のエレベータがある。その内部は、完全な無重力になっていて、普通のエレベータのように箱が上下に行きかうことはなく、人々は空中を泳いで階を移動することができる。無重力を体験するために作られた特別な設備だった…

建設途中の高層ビル (Skyscraper Under Construction)

建設途中の高層ビルの工事のスピードは目覚ましく、見かけるたびに高度を増していた。きっとすごく高いビルができるんだろうね!とそばで息子が言う。この街にはじめてできる高層ビル。その工事現場をより近くから見るためだけに、日曜日、僕は息子を連れて…

マッド・ギアの隠れ家 (Mad Gear Hideout)

午後の遅い時刻、古い神社の前を通りかかった。何となく鳥居をくぐり、境内を歩きまわっていると、神社の段木の上に、何か見慣れないものが置かれているのに気づいた。近づいて見てみるとそれは兜だった。戦国時代の将軍が被るような兜。全体はつややかな青…

 トレーニング・ステージ (Training Stage)

むき出しのコンクリートが四方を囲う灰色の部屋。窓はなく、照明は天井に埋め込まれた小さな電灯がひとつだけ。室温は空調設備によって常に一定に保たれている。外の音は届かず、どの時間帯にも完璧に無音だった。ヒビキは一日のうち最低でも6時間、その部屋…