ある同僚の思い出

昔ある運送会社でアルバイトしていたときに、やたらに顔が丸い同僚がいた。ある日その丸顔の彼が、なんだか普段とは少し様子が違って見えた。丸い顔が普段よりさらに丸く、身長や手足が、普段よりわずかに長い気がする。人柄も普段より明るく、それでいて動作はどことなくのっそりしている。それはまるで丸顔の彼によく似た別の人物が、変装してそこにいるといった感じだった。
周りの人たちも違和感を抱いているようだったが、誰もそのことを追求したりはせず、そのままみんな働いていた。丸顔の彼は普段より明らかに仕事熱心で、愛想がよかった。同僚や社員が近くを通りかかるたびに、彼は大声で元気よく挨拶していた。それは普段なら聞いたことのないような声だった。何人かの社員の人が、その挨拶について感心して称賛しているのを、僕は耳にした。

その日は何事もなく終わり、しかし次の週になると、丸顔の彼は仕事場にやって来なかった。そしてそのまま彼は二度と運送会社に姿を現すことはなかった。雇用主に聞くと、無断欠勤が積み重なってそのまま解雇となったのだという。アルバイトがそんな辞め方をすることは珍しくなかったので、雇用主は怒るでもなく淡々としていた。そしてそのままみんな丸顔の彼のことなど忘れてしまった。
でも今でも僕はときどき思いだしてしまう、最後に丸顔の彼を見かけた日の、あの普段とは違う様子。あの不自然な頭と身体のバランス、そして奇妙なほどゆっくりとした動作を。そしていつも不思議な気分になる。あの男は、本当に本人だったのだろうかと。