陽だまりの幽霊

アパートは廃墟のような古びたビルと隣り合っていた。窓から手を伸ばすとその黒ずんだ灰色の壁に触れることができた。日当たりはもちろんすこぶる悪い。この街ではそうした住環境は珍しくなかったし、僕には部屋を選り好みできる余裕がなかった。
何も考えたくないときにはよく窓越しにビルの壁面を眺めた。冷たくのっぺりとしたコンクリートを見つめるうち、思考も想像もすべてみんな、そのくすんだ灰色に塗り込められてしまう。
天気が良ければ一日に5分間だけ、窓から日が差し込む。窓辺の床に正方形の小さな陽だまりができる。幽霊はいつもその光とともに現れた。
束の間の暖かみをいつくしむように、幽霊は陽だまりの中に立って、目を閉じていた。僕はたいていベッドに寝そべっていた。我々はお互いに干渉しないようにしていた。
5分が過ぎると光は去り、たちまち部屋は元の薄暗い空間に戻ってしまう。そして幽霊は姿を消している。