雨を待つ日曜日

今日はどこにも出かけるつもりがなかった。僕は窓の外の曇り空を眺めながら、朝食のためにホットケーキとヨーグルトを食べ、コーヒーを飲んだ。食べ終えたあと、しばらくぼんやりする。そうやって何もせずにぼんやりする時間が、僕の生活にはとても多いのである。

新しくコーヒーをカップに注ぎ、それをもって机に向かった。買ったばかりの万年筆が机の上に置きっぱなしになっている。今日の日曜日、僕はその書き心地を思う存分試すつもりでいた。昨夜はそのことを楽しみにしながら眠りについたのだ。

机に大きな方眼用紙(B3サイズ)を広げ、万年筆にコンバータをセットして、インクを注入する。そして金色のペン先をそっと紙の上に乗せた。ところで頭の中には書くべきことなど何一つなかった。だからただでたらめにペン先を滑らせることしかできない。万年筆は、シャクシャクという音を立てながら滑らかに紙の上を這い、ブルー・ブラック色の痕跡をあとに残した。数秒ののちには見知らぬ図形が紙の上に描き出されており、その図形はさらに新たに線や図形を取り込みながら発展し、やがては得体の知れない一つの大きな絵のようなものになった。

自由に手を動かしていると、その行為に脳が刺激されたためか、いつしか僕は意味のある図形を、たとえば椅子とか樹木とか幽霊とか音符とかに似たものを、いくつか描き出していた。思い付きで描いた絵が支離滅裂に踊る方眼用紙は、ぱっと見た感じにぎやかだった。
紙とペンが擦れるかすかな音だけが部屋に響いていた。そうやって時間が過ぎるうち、ささやかな充実感が体の中にたまっていった。
疲れると休み(僕は大体一時間おきに疲れる)、コーヒーを飲んだり、ぼうっとしたりして、それからまた書いた。

ぱらぱらという音が聞こえてきて、僕は顔をあげた。針みたいにまっすぐ降る雨が窓の外の景色を白く煙らせていた。ずっと遠くから雷鳴も聞こえた。
僕の思いは聞き届けられたらしい。ずっと待っていたんだよ、降りだすのを待っていたんだよ、いつしかそんなことを、僕は呟いていた。雨粒がガラスの表面をぬるぬると滑り落ちていく。