真夜中の神聖ダンス

暗い部屋の真ん中に立ち、男はゆっくりと身体を動かしはじめた。両腕は空間に張り巡らされた透明なレールをたどるように滑り、足は床にいくつもの円を描く。紙のように軽やかなその動作は一切音を立てなかった。吐息も衣擦れの音もなかった。
壁の時計は2時30分を指している。部屋に響くのは秒針を刻む音ばかり、荒野の片隅に建つその家を訪れるものは、真夜中であっても少なくはない。どこからともなく集まった眼球の群れが、窓から部屋を覗き込んでいた。厳粛で神聖なその踊りは多くの視線を集めずにおかない。それぞれの眼球は異なる色の光をたたえ、それらの光が束となって部屋に差し込んでいた。
男は全てを無視して踊る。儚いスポットライトの中で、男の動きはだんだん人間離れしていった。正常な人間には不可能な角度に腕を曲げ、常軌を逸した柔軟さで上体を深く反らせ、天井に届くほど高く跳ねた。眼球は次々と増え、いまや窓枠をほとんど覆いつくしていた。
黒い乾いた風が眠る木々の葉を揺らせ、灰を含んだ砂が屋根に吹きつける。いつかは男もまた荒野をさまよう無数の眼球のうちの一つとなる。そのことを知りながらもなお、男は踊りを止めるつもりはないのだった。