不眠/走ること

3か月ほど前から不眠ぎみになって、夜中に何度も目が覚めたり、明け方に起きてそのまま眠れなくなったりするようになって、それで早朝に走るようになった。それで知ったのだが走るのは楽しい。こんなに楽しいとは思わなかった。歩くのより何倍もよい。歩くのより楽しいのは、同じ時間をかけても歩くのよりずっと遠くまで行けるからだと思う。短い時間に遠くまで行って帰ってこられるのがとてもよい。あと走り終えた後はとてもお腹が空くし喉が渇くので、食べたり飲んだりするのが楽しくなる。水道の水さえおいしく感じる。これはいい。あと何よりいいのは、走っている間は一時的にいろんなことを忘れられる。走り出すと自然と頭が空っぽに近い状態になる。つまりリラックスできる。最近嫌なことがあって(水道のパッキンが壊れて一晩中水が流れる音が聞こえてまた眠りを妨げられたこと)結構なストレスを感じていたときに、ああ走りに行きたい、と思っている自分に気づいて、そのとき初めて自分が走るという行為の中にリラックスの要素を見出していることを知った。そしてそのあとから、走ることがもっと自覚的に好きになった。
以前から走ることに関心がないわけではなかった。意味もなくランニング雑誌を買ったり、ランニングシューズを買ったりしていた。でも走ってみたいという欲求はまったくなかった。町で走っている人を見かけたり、走ることについて語ったりする人を見るたび、あんなしんどいことよくやるよ、俺は絶対やりたくないよ、と思っていた。しかし内心では、いずれ自分は何かがきっかけになって走るようになるんじゃないか、とまったく考えていなかったとは言えない。不眠になったことがそのきっかけだったらしい。
ところで最近知ったのだが睡眠不足の状態で走るのは身体に悪い。運動と睡眠を比べたら睡眠のほうが重要なのは当然だから、まあそりゃそうだろうなとは思う。でも僕は健康に良いからとか、長生きしたいからとかそんな理由で走るのではないから、別にかまわないという気もしている。頭を空っぽにできるから、水が美味しく飲めるから、楽しいから走るのであって、健康への悪影響なんかは、はっきりいってしまえばどうでもよい。そんなのはもう受け入れるしかない。しかし走るようになって以来、体調は妙にいい感じがする。どこかが痛かったりどこかがおかしかったりということがなくなった。もっとも、うまく眠れない日はいまだに多いので、どう考えても健康とは言えない。
極端な話、明日世界が滅びるとしても、走る人は走るんじゃないかと思う。そんなことを言う人がいたら、以前なら正気を疑ったかもしれないが、今ならそんなには驚かない。