森のタヌキ

引っ越した先の家の近所には森があって、僕はその森が気に入った。森というより雑木林と呼んだほうが近いかもしれないが、ちゃんと遊歩道もあるし、静かで人けがなく、植物や野鳥を観察できる。僕は何度もその森に一人で足を運んだ。子供たちを連れてちょっとしたピクニックに出かけたこともある。

ある日のそんなピクニックの折、我々の目の前にずんぐりした毛だらけの動物が草の影から現れたことがあった。猫かと思ったが猫よりは大きく、顔つきも明らかに違っていて、走り方もどことなくのっそりしている。娘と息子はすぐさま飛びつくようにその動物を追いかけた。子供たちのそういう珍しいものを見かけたときの反射神経の速さには、いつも目を見張ってしまう。見慣れぬ動物はすぐに逃げて草木の陰に隠れてしまった。
あれは何だったのかと子供たちが問うので、僕はたぶんタヌキだろうと答えた。ひょっとしたらアライグマかもしれない(🦝←なぜかタヌキの絵文字はない)子供たちは珍しい動物を目にしてはしゃいでいたが、すぐに逃げてしまったことを残念がってもいた。

タヌキは珍しいが、意外と市街地に現れないわけでもないらしい。ときどきそんなニュースを見ることもある。息子のケイは、タヌキを捕まえて、家で飼おう、と提案し、娘も同意していた。お友達ができたらBWも喜ぶだろう、と二人は言う。BWというのは、家で飼っている猫の名前である。ブラックとホワイトの頭文字で、猫が黒と白の模様を持つことから、妻が名付けた。しかし猫というものは、タヌキと仲良くできるのだろうか?…………