ピクニックの一日

9月のある日曜日の朝、子供たちがタヌキを探しに行こうとせがむので、また近所の森に出かけることになった。するとなぜか機嫌のよかった妻が、せっかくだからお弁当を作ってピクニックみたいにしようと提案して、子供たちもそのアイデアに賛成し、それで我々は出かける前に昼食のためのサンドウィッチを作った。僕はパンを切り、ユイがそれにマヨネーズを塗る。妻がハムやレタスやキュウリを挟む。
ユイがパンにやまほどマヨネーズを塗るので、妻が注意していたが、娘はこれは自分で食べる分だから、と言ってきかない。サンドウィッチができあがるとそれをバスケットに詰め、我々は出発した。

森を散歩しながら、僕らはあちこちを探し回ったが、タヌキはどこにもいなかった。どうして出てこないのかな、と子供たちが言って、僕は、きっと隠れているのだろう、動物は警戒心が強いから、もう見つからないかもね、と言った。
でもこないだは出てきたのに、と子供が言って、僕は、あのときはたぶんタヌキも油断していたんだよ、と言った。
どうして怖がるのか?こちらは愛をもって接しようとしているのに、という意味のことを、たどたどしい言葉遣いで小さい息子のケイが言い、それに対して姉のユイは、自分よりずーっと大きい生き物が追いかけてきたら、ケイちゃんだって逃げるやろ、と言って、弟を納得させていた。
森には多くの鳥がいて、子供たちは見かけるたびにそれらの鳥の名前を尋ねた。僕はろくに鳥の種類や名前を知らなかったが、妻が思いのほか鳥に詳しかったので助かった。でも一向にタヌキは出てこない。おお、タヌキよ、お前はどこに行ったのだ?
そのうちに公園に行きついた。小さな東屋があり、そこにはベンチとテーブルもあった。我々はそこで昼食をとることにした。バスケットからサンドウィッチを取り出し、食べはじめる。でもユイは自分の分としてマヨネーズをたくさんつけたサンドウィッチがどれであるかわからず、結局手当たり次第に食べていた。おかげで僕はひどくマヨネーズがたくさん入ったサンドウィッチをつかまされてしまった。そのあと二人の子供は公園にあった遊具で遊びはじめた。さっきまではタヌキに出会えなくて意気消沈していたのに、今ではそんなことはすっかり忘れてしまっているように見える。

帰り道で子供たちが喧嘩みたいになった。娘が「暑い。のど乾いた」と言って、その発言を弟が「ドド乾いた」といった感じで繰り返して、娘がそんな言い方はしていないと反論して、それで言い合いになったのだった。でも途中でジュースを買って、涼しい日陰に入ってそれを飲んでいたら、二人ともだんだん機嫌が直ったのでよかった。