宇宙エレベータ (Cosmic Elevator)

宇宙センター内には巨大な透明の円筒型のエレベータがある。その内部は、完全な無重力になっていて、普通のエレベータのように箱が上下に行きかうことはなく、人々は空中を泳いで階を移動することができる。無重力を体験するために作られた特別な設備だった。エレベータはもちろん一般見学客にも開放されていて、人々はたいていみんなその無重力空間で遊ぶことに夢中になる。
今日は修学旅行の小学生の集団がセンターの見学に来ていた。子供たちはプラネタリウムで天体観測をして、コンピュータ・グラフィックスによる仮想宇宙を旅し、スペースシャトル打ち上げの体験をしながら、宇宙について学んだ。そして昼休み後の自由時間になると子供たちは宇宙エレベータに殺到した。彼らは生まれてはじめて体験する無重力に夢中になり、休む間もなくひたすら空間を泳ぎ回って遊んでいた。
そのうちにエレベータの底部の平べったい鉄の板に見えていた部分が、扉のように開いて、奥から一匹の獣が現れた。ライオンに似たその獣は、オーロラ色の美しい毛並みを揺らしながら、子供たちにゆっくりにじり寄った。予期せぬ事態に驚いた子供たちは悲鳴をあげ、恐怖のあまり固まった。しかしもちろんその獣は子供たちに害をなすものではない。すぐにアナウンスが流れ、獣について説明した。それは太陽系の小惑星帯の一角に浮かある無人の星において捕獲された獣で、研究所内で宇宙的愛玩動物として飼育されている。毛並みの色から獣はオーロラライオンと名付けられた。
オーロラライオンが無重力空間を駆けまわるそのスピードに、子供たちは目を見張った。子供たちはすぐにライオンになつき、宇宙エレベータの中で戯れて遊んだ。