ジュラ紀研究施設にはジュラ紀の風景をそのまま再現する設備がある。そこではアロサウルスやイグアノドンが大地を駆けまわり、空には始祖鳥。しょっちゅう博覧会などで骨が展示されるような有名な恐竜ばかりではなく、誰も知らない地味で小さい恐竜までちゃんと再現されている。全てコンピュータ・グラフィックスだが、そのことを知っていても、それが本当にCGだと信じられないときがある。それはときどき全く本物に見えるのだし、あまりのリアルさのために、観客が気を失って倒れたこともある。
今、広大な架空の草原に音もなく雨が降っている。とても静かだった。そうだ、2億年前の地球はとても静かなのだ。僕はそのことを知らなかった。恐竜たちはいつも暴れまわっているわけではないし、火山だっていつも火を噴いているわけでもない。当時の地球はほとんどの時間を完璧な静寂が支配していたのだ。僕は一人草原に立ち、火山灰と熱気をはらんだ空気を呼吸する。その空気は毛布のように身体にまとわりつく。この静けさもまた、施設の設備によって再現されたものだが、僕はこの静けさを愛していたし、それを体験するためだけに何度もこの研究施設に忍び込んでいた。人々は恐竜にばかり関心を向ける。でも僕には恐竜よりもこの静けさのほうがずっと良い。太古の静けさの中で僕は自分もまた時間の巨大な流れの中に含まれていることを実感できる。その気分は素敵だった。