古い寺 (Old Temple)

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風のない静かな午後、女が縁側に腰かけて歌っている。悲鳴みたいな歌声が、無人の境内に響きわたる。女の視線は目の前の松の木を見据たままさっきからまったく動かない。瞬きさえしない。同じ旋律が何度も繰り返されていた。古い寺には誰もやってこない。その歌を聴く者はいない。

雨が降り出したとき、歌声はすでに途絶えていた。女は床に横になって目を閉じていた。青ざめたその手にも雨粒が落ちる。遠くで雷鳴が鳴った。女は自分が虹になる夢をみていた。雨は激しさを増し、地面はぬかるみになった。