人類が死滅した夏休み

ずっと何年も地下に閉じこもって生活していたから、久しぶりに外に出たとき、眩しくて眩暈がした。空は青く晴れ渡り、太陽はぎらぎらと輝き、日陰の色は異様に濃く、まぎれもない夏だった。
僕は眩暈と頭痛に耐えながら、身体を引きずるようにして、近くの道路を歩きだした。人の姿はまったくない。やけに強い風が吹いていて、ときどき身体がよろめくほどだった。少し歩くと坂道があった。その坂を上りきったところに小さな公園があることを、僕は覚えていた。坂をのぼりはじめたとき、僕は先ほどから自分がずっと手に何か大きくて軽くてぶよぶよしたものを抱えていることに気づいた。坂をのぼりきり、公園に着いたとき、その場所は記憶にあるよりずっと狭く小さく、そしてやはり人はどこにもいなかった。片隅の木陰の下に小さなベンチがあって、僕はそこに腰掛け、手に持っていたぶよぶよした物体を傍らに置いた。そのときはじめてそれがクッションであることを知った。公園の柵越しに街並みが見える。動くものは雲のほかには何もなかった。町は時間が止まったみたいに静止していた。なんだか世界が滅びてしまった後みたいだ。僕が地下に閉じこもっている間に、何らかの原因によって人類は死滅し、僕だけが何も知らずについ一人だけ生き残ってしまったのだろう。さきほどから吹き続けている強風は、どこか原始時代めいた匂いがする。しかしその澄みきったクリアな風の感触は僕にとってむしろ不愉快だった。クッションに頭を預けてベンチに横になった。するとさっきからの頭痛が、かつてないほど耐え難いものになり、僕は目を閉じて、眠りが訪れるのを待った。