いつも静かな場所

海にて

長い距離を泳いで、ハルは崖の下にたどりついた。海岸から遠く離れ、海水浴客は黒い点のように見える。それらの点のうち、どれが自分の妻と子供たちなのか、見分けがつくはずもなかった。崖はおよそ20メートルほどの高さがあって、斜面はほとんど垂直だった…

海へ

海水浴場は思ったほど混雑していなかったのでよかった。僕は水上スキーをやりたがる子供たちにそれをあきらめさせ、代わりに子供用のサーフィンボードを買って、それで遊んだ。子供用のサーフボードというものがちゃんとあるのだ。水が嫌いな弟のケイも、意…

あるちょっとした炎上の思い出

ずっと以前のこと、ブログに投稿した文章が原因でちょっとした炎上みたいになった。僕は自分のブログであるミュージシャンを批判したのだ。誰かがその文章をある掲示板にコピーアンドペーストして投稿して、それがミュージシャンのファンの怒りを買ってしま…

プール遊び

今日は庭にゴムのプールを置いて子供たちを遊ばせていた。娘が弟にどんどん水をかけて、水が苦手な弟はひどく嫌がって逃げ回っていた。あんまりいじめちゃだめだよ、と僕はいさめたのだが、娘は弟を水に慣れさせないといけない、という使命に燃えていて、ひ…

線を引くこと

その日、仕事は芳しく進まなかった。僕は規則正しく仕事をするたちなので、そうしたことは珍しい。大きく調子を崩すといったことがない。進捗の具合も規則正しいのだ。毎日規定の分量の仕事をこなす。僕は電化製品のマニュアルや機械製品に付属するマニュア…

父について

部屋のスピーカーから音楽が流れる。ジョルジ・リゲティの『ロンターノ』。ハルはその曲を聴くと父を思い出す。そして同時に、父がいつも四六時中ひっきりなしに吸っていた煙草の煙の匂いも。父の部屋ではいつも煙がもうもうと立ち込めていて、そしてたいて…

個人ブログを読むこと/書くこと

昔はよく個人ブログを読んでいた。2008年とか2009年ごろのことである。赤の他人の見ず知らずの人たちによるいろんなブログを、RSSリーダーに登録して。ただの平凡な日記みたいなブログから、専門的な技術ブログまで、いろんなブログがあった。 今は以前ほど…

海へ行く約束をする

土曜日には妻が息子のケイを病院に連れて行っていた。息子は急に熱を出したので、コロナじゃないかと僕たちは心配してなおかつ怯えていたのだったが、風邪だということだったので安心した。ケイは寝相がとても悪く、すぐ掛け布団をどこかにやってしまうから…

雨の公園

長崎に旅行したときに買った一輪挿し。娘はそれがお気に入りみたいで、しょっちゅう眺めている。彼女はガラスとかビー玉とか透き通ったものが好きらしい。それ、ユイにあげようか、と僕が言うと、娘は目を輝かせて僕を見上げ、本当、と言った。本当だよ。あ…