海へ

海水浴場は思ったほど混雑していなかったのでよかった。僕は水上スキーをやりたがる子供たちにそれをあきらめさせ、代わりに子供用のサーフィンボードを買って、それで遊んだ。子供用のサーフボードというものがちゃんとあるのだ。水が嫌いな弟のケイも、意外にサーフィンは楽しいらしく、うつぶせに板の上に寝そべって海に浮かんでいた。僕は彼らと一緒に泳いだり、海ブドウをつぶしたりした。妻はほとんど海に入らず、パラソルの下で座ったり寝そべったりしていた。妻は子供たちと一緒になって海水浴を楽しみにしていたはずだった。そのことを僕が言うと、日差しが強くて日に焼けるのが嫌だ、と言った。彼女には気まぐれなところがある。
海岸はにぎわっていて、砂は火がつきそうなほど熱かった。ケイがうずくまって砂浜に開いた小さな穴を覗き込んでいたので、中にカニが住んでるんだよ、と教えてやった。
ケイはその穴に砂を入れた。
埋めちゃだめだよ。カニが出られなくなるよ、と僕は言ったが、ケイはお構いなしに穴に砂を注ぎ込んでいる。無理もない、僕も子供のころには同じことをやった。
閉じ込められたらカニはどうなるん、とそばにいた姉のユイが言った。
息ができなくなって死んじゃうかもしれないね、と僕は答えた。
かわいそう。ねえ助けてあげなよ。
大丈夫だよ、カニはすごく深くまで潜っているし、自分で穴を掘れるからね。また別の穴を掘って、無事に出てくるよ。生き埋めにはならない。
でも僕はカニのことなどほとんど知らない。

昼になって、僕たちはパラソルの下で焼きそばを食べた。そのとき頭上からプロペラの音が聞こえて、ケイが指さしてその乗り物の名前を大声で叫んだ。ユイの友達に、ヘリコプターに乗ったことのある子がいるらしく、そして娘は自分もそれに乗りたいと言った。それで僕は、ヘリに乗るためには、たくさんお金を払わないといけないし、普通の人は簡単には乗れないのだ、と説明した。ユイとケイは遠ざかるヘリコプターが見えなくなるまで眺めていた。