お化けメルセデス 

昔ある商業施設で夜警のアルバイトをしていたとき、警備室に防犯カメラのモニターがあったのだが、そのうちの一つ、地下の駐車場を映すモニターに、ときどき変なものが映った。それは一台の真っ白なメルセデス・ベンツで、いつも正確に同じ時刻、午前4時32分になると画面に映し出される。遠くに2つのヘッドライトが小さく浮かび、それがゆっくりと近づいてきて、カメラの前で車は左に折れ、そのままフレームの外へ消える。たいてい一晩に何度か、そのメルセデスの姿は映し出された。それは場内をぐるぐると何度も回っていたのだ。まるで駐車スペースを探すみたいに。そんな時刻には当然駐車場内はガラガラなので、もし停めたいのならどこにでも停められるはずだった。でも車はどこにも駐車しようとしない。
夜間には駐車場は閉ざされているので、外から車が入ってくることはない。従業員とか関係者の車でもないことはみな知っていた。明らかに不審だったのに、我々は、つまり警備員たちは、その車がモニターに映っても無視していた。無視というよりは、その車をそこにあって当然というものとして見ていた。風景を形作る一部であるかのように、目にしていながら無視していたのだった。誰もその車に言及しなかったし、施設の責任者に報告することもなかった。
そのうちに車はいなくなる。駐車場内を探しても白いメルセデスなどどこにも見つからない。
午前4時32分になるのを見計らって、駐車場の隅に隠れて待ち構えていたこともある。でもそんなときには、メルセデスは決して現れないのだった。