109の駐車場 (The Pitstop 109)

あんなのは絶滅したと思っていた。昔懐かしいガングロギャルとかいうやつだ。今日の午後駐車場ですれ違ったのはまぎれもなく当時のままのガングロギャルだった。ああ、あの世紀末の日本社会に、突如生じた異常な現象。その女は短いスカートから伸びる日焼けした脚にルーズソックスを履いて、デコレートされた金色の髪の毛を揺らしながら歩き去った。彼女はまさしく90年代からタイムスリップしてきたかのようだったし、当時の空気を魔法のようにその場によみがえらせていた。
どう見ても彼女は若くはなかった。あのガングロブームが流行した90年代後半にティーンエイジャーを過ごした年代であるに違いない。僕は思わず振り返ったし、ほかにも何人かの人が同じように彼女を興味深そうに見ていた。
あの頃、あのおぞましい流行を目の当たりにした僕は世も末だという気分になったものだが、今考えてみるとあれはあれで評価できる部分もあったようにも思えてくる。確かにラディカルで破壊的で、先進的なムーヴメントだった。類似の現象はほかに例がない。そしておよそ20年以上ぶりにそのファッションを目にした僕はそれを懐かしんでさえいた。当時ガングロギャルをやっていた女たちの多くはどうせ数年も待たずにあっさりとその仮装を脱ぎ捨て、ラディカルでも何でもない凡庸な若い女に戻ったのだろう。そして現在ではまるでそんな過去などしなかったかのようにごく平凡な主婦として日々を送っているかもしれない。
あの女は2022年の現在に至るまでガングロギャルであり続けている。僕はまるで偉大な芸術家を目の当たりにしたかのように畏敬の念に打たれて、歩き去る女の後ろ姿を茫然と見送ったのだった