テレビ破壊

彼は幼くして両親を亡くし、親戚の家に引き取られて育てられた。親戚の人々は概して彼に親切だったが、彼は完全には心を開かなかった。
ある日、彼は家に一人だった。親戚の人たちは彼を置いてどこかに出かけていた。意味もなく家の中をあちこち歩きまわっていると、戸棚にボーリングの球を見つけた。なぜそんなものが家にあったのかは知らない。親戚の誰かがおそらく、ボーリングを趣味としていたのだろう。
彼はそれを戸棚から取り出し、抱えて居間へ行った。居間には家で一番大きい40インチのテレビがある。彼はそのテレビを床に倒し、それからその黒い画面の上にボウリングの球を投げつけた。硬い音がして画面に細かい亀裂が走った。何度も同じようにした。一打ごとに機械は歪み、部品が砕けて飛び散った。

彼はその機械を憎んでいた。というより怖れていた。そこからいつも響く笑い声が彼には怖ろしかった。画面に映し出される人たちはたいていいつも笑っている。何かあるたびに大声をあげて笑うし、そうでなくても微笑のようなものを浮かべている。彼にはそのことが怖かった。人はそんなに頻繁に笑わなくてはならないのか、可笑しいこととはそんなにしょっちゅうあるものなのか、そういったことを考えると彼の知性はしばしば混乱をきたした。でも親戚の人たちはテレビが大好きだったので、家にいるときには必ず何かの番組が画面に映し出されていた。

しかし彼はいつかあのテレビを壊してやろうとかねてから考えていたわけではない。戸棚を開けて、きらきら光る黄色いボーリング球を見たとき、その衝動はいきなり彼を襲ったのだった。これで壊せばいいんだ、簡単なことだ、と思った。
そのあとであらためて居間のテレビを目にすると、その平べったくてのっぺりとした黒い画面は、いかにも何か大きくて重いもので叩き壊されたがっているように見えた。そしてそれを実行するのに、ボウリング球というのはまったくふさわしい道具であった。

彼はひとおとり破壊を終えた。ガラスの破片や薄い板状の部品や小さな精密機械がカーペットの上に散らばっている。かつてテレビと呼ばれていたあの物体は今ではただのわけのわからないがらくたに成り下がった。その機械は考えていたよりもずっと脆かった。

親戚の人たちが帰ってきて居間の惨状を目にした。彼らはとくに彼を叱りつけたりはしなかった。しかしそれ以来、彼は親戚から基本的に無視されるようになった。
それから1か月後、彼は家を追い出された。