家にて

昨日の夜は、あなたはどこにいたのかな?、と朝起きてダイニングに顔を出したとき、妻が言った。昨夜、僕はナナタンのマンションから深夜に帰宅し、そのときすでに妻も子供も眠っていたので、昨夜は妻と顔を合わせる機会がなかったのだった。
女の部屋だよ、と僕は答えた。
なに?
女の子の部屋だよ。と僕は繰り返した。
女の子の部屋。と妻も繰り返した。
そう。
誰なの?
昔からの友達なんだよ。相談に乗ってあげていたんだ。
わざわざ部屋まで行って相談に乗ったの?
本も借りたんだよ、と言って僕は借りてきた本を妻に見せた。
そんなのどうでもいいわ。本当は何しに行ったの。何してたの
久しぶりに会ったからさ、つい話し込んでしまったんだよ。
二人きりで?
うん。懐かしかったよ。君にだってそういう友達ぐらいいるだろう。
どんな相談?
それは言えないよ。彼女のプライバシーだからね。
あなたさあ、私の気持ちとか考えないの?
何のこと?
懐かしいお友達に会えてよかったね、相談に乗ってあげて偉いね、なんて私が言うとでも思ったの?
いや。
じゃあなんでそんなことしたんよ。もっとましな言い訳しなさいよ
言い訳じゃないし、僕は質問に答えただけだよ。正直に、誠実に答えたんだよ。
まともじゃないわね。
嘘をついたほうがよかったのかな。
そういうことを言ってるんじゃないわ。
でも気の毒で、放っておけなかったんだ、彼女はいろんな問題を抱えているんだよ。なんでも子供のころに、両親が………
聞きたくない、知りたくないわ。その話は二度としないで。
僕は頷いた。
あなたがそんなに正直になるんなら、私からも正直に言っておくわ。次に同じことやったら殺すわ。
僕はもう一度頷いた。まさか本当に殺されるわけもあるまい、と思いながら。