夜中に食べながら村上春樹を読むこと

夜中、空腹のために眠れず、戸棚をあさっているとポテトチップスを見つけたので、本棚から『ダンス・ダンスダンス』を取り出して、それを読みながら食べた。
ところでよく言われることだが、村上の小説は食事に合う(言われてないかもしれない)。夜中に何か食べながら読むのに、村上春樹の小説ほど適したものはない。おそらくあの文体のせいなのだろう。おそろしく読みやすく、そのうえ読んでいて心地よく、文体の力だけで、分厚い小説でもあっという間に読ませる。そのうえ食欲さえ増進させてしまう。このことだけでも、彼はノーベル文学賞などよりはるかに偉大な功績をなしえている。もし村上がいなかったら、僕は夜食のときに何を読んでいたのだろう。それを思うとほとんど不安になる。彼の文体や作風を模倣する人はいても、同じように書ける人はいない。

それにしても『ダンス・ダンス・ダンス』はいい。僕はほとんどすべての村上作品が好きだが、中でもこの小説が一番好きなのだった。内容も表紙の絵も何もかも良い。ページの隅々にまで80年代の空気が滴るほど染み込んでいる感じがして、だから読んでいるとちょっとしたタイム・スリップみたいな気分になる。