同窓会の夜

僕らはとりとめもない話をした。仕事の話、家族の話、最近読んだ本や観た映画の話。でもやっぱり昔話が一番盛り上がる。故郷の街は、今ではずいぶん変貌を遂げているけれども、僕らは昔の、つまり僕らが子供時代を過ごした当時の街並みについて、語り合いながら思い出していった。あの角におもちゃ屋があったとか、あの交差点にゲーム・センターがあったとかそういう話。酒を飲みながらそんなことを話していると、空間に昔の街並みがありありと描き出されるみたいで、それに伴って当時の思い出やなんかやいろいろなことが生々しく思い出されて、つい感傷的になってしまう。それはタイムスリップだった。短い夢みたいなつかの間の時間旅行。年に一度、僕らはそうやって過去を旅する。それによって気持ちは不思議なほどリフレッシュされ、そしてまた明日からの生活に戻るための活力を補充することができるのだった。時には涙さえ流す。いや、実際には流さない。でもみんな心の中では泣いているんだと思う。僕らは歳をとっていろんなものを得た代わりにいろんなものを失った。故郷の街の景色さえ失ってしまった。だから泣くのはそんなにおかしなことじゃない。みんな顔では笑ってはいる。それだけじゃなく酔っぱらって大声でわめいたり歌ったり、妙なことを口走ったり、ひどく滑稽であられもないふるまいに及んだりもする。誰もが開放的で打ち解けた気分で、心からこの会合を楽しんでいる。それでもやはり僕らは泣いていたのだ。
あのとき自分は泣いていたのだと僕が気づいたのは夜中、みんなと別れてからのことだった。