病気になったナナタン

ある日ナナタンが待ち合わせ場所に現れなかった。もっとも彼女は普段からあまり時間を守らないし、最大2時間半まで遅れたことがある。メッセージを送っても返信がないので、電話を掛けるとナナタンは出たが、声がひどくかすれていた。
何かあったのかと聞くと、風邪をひいたということだった。
大丈夫なのかと聞くと、彼女は答えなかった。しかし無視したわけではなく、しんどくて言葉が出せないらしい。ただ吐息のようなものだけが聞こえていた。それで僕は心配になって彼女のマンションに向かうことにした。
マンションに着いてインターフォンを押すと、ナナタンはパジャマ姿でドアを開けた。顔が赤く、呼吸が荒い。ドアを開けるだけで息絶え絶えらしく、玄関先の床に壁に背中を預けて座り込んでいた。僕は彼女を抱きかかえてベッドに運んだ。
ナナタンは身体がすごく熱くなっているのに指先だけは冷たかった。病院へ行こう、と僕が言うと、彼女は強く拒絶した。そんなことするぐらいなら死ぬ、と叫ぶように口走り、その調子がとても冗談に聞こえなかったので、僕は病院に連れて行くのあきらめて部屋で看病することにした。汗を拭いたり、飲み物や果物やお粥を与えたりした。ナナタンの様子は目まぐるしく変わった。ちょっとしたことで大笑いしたりしたかと思えば、息を喘がせてのたうちまわりながら苦しんだりした。おびただしい量の汗をかいたかと思えばまったく汗をかかなくなることもあった。そして真偽の不確かな、不自然なほど細部が正確な遠い昔の思い出話を淡々と語っりした。