目が覚めたとき彼女がいなかった

目を覚ましたとき、ナナタンはいなかった。朝の6時過ぎだった。僕はベッドで横になったまま、しばらくぼんやりしていた。遠くで電車の車輪と線路が擦れる音がして、それを聞いたとき、なぜかわけもなく胸が高鳴るのを感じ、ベッドから降りて、室内を探し回った。どこにも彼女の姿はなく、僕が言い知れぬ不安に襲われかけたとき、いきなり玄関にのドアが開いて、ナナタンが部屋に入ってきた。彼女は黒いスウェット・ジャージを着ていて、汗をかいていた。彼女はそのままシャワーを浴びに行った。
浴室から出てきた彼女に、どこに行っていたのか、と尋ねると、ジョギングだと彼女は答えた。
「毎朝、走ってるの。最低でも30分。
君は病気なんだよ。安静にしていないとだめだよ
もう治ったわ。
確かに彼女は昨日とは見違えるように血色がよかった。咳もしていなかった。
「それにしてもいきなりジョギングだなんて…?
平気よ。平気なのが自分でわかるんだもの。私の風邪はいつもこうなの。いきなり来て、すぐ去っていくの。ねえ、それよりあなた、明け方にひどくうなされていたよ。
そう…内容は忘れたけど、ひどく緊張感のある夢をみていたような覚えはある。
気の毒だから、起こしてあげようかと思ったけど、面白いから見てたわ。とナナタンはにやにやしながら言った。

確かにナナタンは元気になっていて、彼女は朝食にグラタンを作り、僕らはそれを二人で食べた。