最初で最後の交合

日差しが明るく地表を照らす、よく晴れた日曜日の午後に彼らは交わった。女は彼の上で傘が開いたり閉じたりするみたいな動きで揺れていた。病気のために衰弱した女の肉体は紙のように軽く、窓から差し込む日差しが逆光になって、表情は終始判然としなかった。それは静かな交わりだった。性交というより人体の機能を二人がかりで確かめ合うような行為だった。二人は声も上げず、その動きには荒々しさも、激しさもなく、まるで機械のようだった。無数の花びらを敷き詰めたみたいな匂いが、部屋に立ち込めていて、その空気の中で、女の身体はまるで油に濡れているみたいに、ピンクにも金色にも見える、不思議な色を浮かべて光った。二つの肉体は、骨も筋肉もない熱く溶けたそれでいてぶよぶよして弾力のある物体のように動きながら、心臓をぴったりと重ね合わせて、お互いの鼓動を伝えあっていた。
遠くの街並みも、空も、秋の神秘的な色合いをまとい、窓の外の公園は、隣接するマンションの陰になって不自然なほど暗く、しかし遠くの家々の屋根は夕日を反射して明るく色とりどりに光っていた。ときどき男は女の肩越しに無表情な目でその景色を眺めた。外の街にも時間が止まったように穏やかで静かな時間が降りている。人々の声も、車が通り過ぎる音も聞こえない。そして彼らはあらゆる音から切り離された場所で交わっていた。
収縮する赤い肉に縁どられた暗い穴は生き物のように収縮し蠕動しながら男の硬直した肉体の一端を何度となく飲み込み吸い上げた。女が男の肩に強く噛みつき、男はその痛みに抗うように腰を突き上げたとき、女の口からはじめて声が漏れ、その声に促されるように、男は同じ動作を繰り返し、さらに速度を速めた。声は次第に高くなり、もっとも高い音を発した直後についえた。女は男に覆いかぶさるようにゆっくりと前のめりになり、そして二人は身体をあわせたまま、大きく背中を上下させてしばらく呼吸していた。男は天井を見つめながら、耳に女の熱っぽい吐息を受け止めていた。白い天井はゆっくりと薄闇に染まってゆき、男は女の肉体が、急に冷えていくのを感じた。しかしその冷たさは最初からそこにあったようにも思えた。行為の最中でさえ彼は女の肉体に、ある種の冷たさを感じていた。皮膚は表面は熱い熱を帯びているのに、その内側にある芯のような部分が固く冷えているようなそんな感じがしていた。おそらくその冷たさが彼女の身体から消えることは永遠にないのだろうと男は思った。

二人はそれからしばらく眠った。目覚めたとき、女はすでに病を克服した人のような顔をしていた。