ずっと一緒に

男は車から降りて周囲を見渡した。湖畔には雨音が響き、動くものの姿はない。男は湖のほとりに立って雨粒が跳ねる湖面を眺めた。傘もささずに、彼は濡れることを少しも気にしていないように見える。男は車に戻り、助手席のドアを開け、そこに座っていた女を両腕で抱えあげた。
さっきまでこの女は生きていた。男の手によって殺されたのだ。山道沿いに停車した車内で、男が女の首にロープを回したとき、女は男の目を見て、何か言おうとした。その唇の動きは明らかに言葉を発音しようとしていた。でもその声はあまりに小さかったので、ルーフを叩く激しい雨音にかき消された。男は聞き返すこともせず、ただ一度頷いた。両手に力を込めてロープを締めあげると、女はあっさりと息絶えた。

女は今、濡れた土の上に横たわっている。男はトランクから二つのクーラーボックスを運んできて死体の隣に置いた。その中には重量を増すために石やダンベルなどが詰め込まれている。男は死体の両足に、一つずつクーラーボックスを紐でくくり付け、それから死体をそっと湖面に浮かべた。それから二つのクーラーボックスを水の中に投げ込む。土砂降りの中、男はそうした一連の作業を黙々と行っていた。何度も予行演習をしていたかのように、動作は自然でよどみがなかった。死体は引きずり込まれるようにゆっくりと水に沈んでいった。

女が自ら彼に殺してほしいと懇願したのだ。男は最初は拒絶した。しかし女の意志は固く、どうしても覆らなかった。最終的に男は従うしかなかった。
僕も死ぬよ、とそのとき男は言った。君が死んだら生きている意味がない、僕も死ぬ、そしてあの世でずっと一緒にいよう、などと口にしたはずだった。でも今、男はそのことをまるで忘れているかのように見える。死体が沈み切るのを見届けると彼は車に戻った。すぐにエンジン音が響き、車はぬかるみを跳ねながら走り去った。
湖面は何事もなかったように雨を受け止めている。その後も久しく湖に人は訪れなかった。