明日の叙景『アイランド』

明日の叙景は素晴らしい。名前を知ったのはわりと最近なのに(r/blackgazeで知った)、今まで聴いてきたヘヴィメタル音楽の中でも一、二を争うレベルで好きになった。ブラスト・ビートと金切り声とデス・ヴォイスに埋め尽くされたその音楽性はブラックメタル以外のなにものでもありえず、でもそこにとどまってはいない。メロディーもふんだんにあって、そのメロディーセンスは非凡なものだし、メタルバンドらしからぬ和声的なパートもあり、ヴォーカルは囁き声や語りや唸りやグロウルや普通の歌唱をさまざまに使い分けるし、ドラムのリズムパターンはひっきりなしに目まぐるしく変化する。そんな楽曲はどれもスリリングで色彩に富んでいて、聴いていると短い間にいろんなところに連れていかれるような感じがして、退屈することがない。ブラックゲイズ系バンドにありがちな、思考停止で同じコード進行や同じフレーズをえんえん繰り返して時間をつぶすといったようなことがない。ただ上手いだけの長い無意味なギターソロもない。ギターソロはときどきあるけれども、それはちゃんと楽曲にとって意味のあるものであり、しかもたいていメロディアスに歌ってて素晴らしい。

最新作『アイランド』のテーマは<夏>。最初はいったい何を言っているんだろうと思ったが、まさにそのとおりのアルバムだった。この間、電車で長い距離を移動する機会があり、その車中で窓から景色を眺めながらこのアルバムをひたすらリピートしていたのだが、夏の午後の青空と雲、そして太陽に照らされた森とか山とか田んぼとか川とか、そういった景色と音楽とがあまりに合いすぎて、感動してぞくぞくした。その体験が忘れられない。ブラックメタルというジャンルは北方で盛んなこともあって冬とか雪とか冷たさとか寒さとか、そうしたイメージが付きまといがちだけれども、彼らはそこに夏らしさという概念を持ち込んでそれに成功した。これはすごいことに思える。ほとんど革命的なことに思える。だいたいそんなことは普通思いつかない。

素晴らしいのはこのアルバムだけではない。これまでこのバンドがリリースしたアルバムやEPはすべて名盤といってよい。ジャンルがジャンルだけに、知名度はおそらく低いが(そのことには僕は常々腹を立てている)音楽性は卓越している。これは間違いなく現代日本で一番いいバンドです。

 

アイランド [AJCD-005]

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