ASIAN KUNG-FU GENERATION『ワールド・ワールド・ワールド』 

 

僕はこのバンドのデビュー当時からのファンというわけではない。でも何年か前にある日突然好きになった。はじめて聴いた曲は『無限グライダー』で、明らかにFっぽい進行ではじまるのにヴォーカルでいきなりEフラットが鳴るのにびっくりした。それで転調みたいなふわっとした効果が生まれていて、このバンドは音楽にすごく詳しいんじゃないかと思った。

どのアルバムも好きだが、いちばん聴いたのは『ワールド・ワールド・ワールド』で、おそらくすでに100回以上聴いている。買う前からきっと気にいると確信していたし、その予感はあやまたず、買ったその日にたてつづけに3度聴いた。今でもたとえば土曜日の午後などによく聴く。『旅立つ君へ』と『ネオトニー』を最初に聴いたときには、その二曲は同じ一つの曲なのだと思い込んでしまい、なんてドラマチックで劇的な楽曲だろうと感動したのを覚えている。でもいちばん好きなのはやはり『或る町の群青』なのだけど。
『ワールド・ワールド・ワールド』におけるドラマーのパフォーマンスはすばらしい。本作に限らずドラミングによって楽曲の魅力が大きく引き上げられている例は少なくない。ギタリスト、ベーシストについても、その才能は決してないがしろにされるべきものではない。彼らの演奏はシンプルだが、そこには伝統的ロックンロール的な骨太さもあり、楽曲に適切な彩りを与えている。とくに僕はベーシストの音色が好きだ。音が自信に満ちていて、楽曲の確固とした、ずっしりとした土台を築きあげている。バンド音楽におけるベーシストの役割を、理想的な形で果たしているといった感じがする。

このバンドについて僕がいちばん関心するのは、彼らが徹底して単調さを避けていることである。楽曲はいずれも短いが単調ではない。一番が終わって二番、その後間奏で、最後にサビを繰り返して終わり、といったj-pop的王道パターンをそのまま踏襲した曲はまずない。安易な繰り返しや反復もめったに出てこない。一見シンプルな曲でもいろんな仕掛けが施されていたりする。曲の途中で飽きる、という状態にリスナーをおちいらせてしまうことに対して、ほとんど偏執的なほどの強い危機感を持っているように感じられる。