建設途中の高層ビル (Skyscraper Under Construction)

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建設途中の高層ビルの工事のスピードは目覚ましく、見かけるたびに高度を増していた。きっとすごく高いビルができるんだろうね!とそばで息子が言う。この街にはじめてできる高層ビル。その工事現場をより近くから見るためだけに、日曜日、僕は息子を連れてデパートの屋上にやって来たのだ。金網に顔をくっつけて、子供はまさしく食い入るようにビルを見つめている。頂上の赤いクレーン車は青空に美しく映えるさまに、僕もまた見とれた。あれほどの高さにそびえるクレーン車を見るのは初めてだった。頂上には数人の作業員の姿がいて、おそらく休憩中なのだろう、リラックスした雰囲気でなにか話していた。レスラーみたいな体格をした大男の作業員が、何か身振りや手ぶりをして、同僚たちを笑わせていた。
こういう大きい建物のことを、摩天楼っていうんだよ、と僕は言った。
マテンロウ、と子供は繰り返した。
そう。
もっとたくさんあったらいいのにね。
これからどんどんできるさ、と僕は言った。

翌日の朝、例の建設途中のビルの近くを通りかかったとき、周囲に人だかりができていて、救急車やパトカーが停まっていて、何か騒がしい雰囲気だった。近くにいた人に話を聞いてみたところ、何でも前日の夕方、建設中のビルの頂上から作業員が転落したらしい。しかしその作業員が、建物のどこからも見つからないというのだ。頂上から地上までの高度は50メートルで、よほど運がよくない限り、落ちてしまえばまず助からない。しかし建物中をくまなく捜索しても、作業員の遺体どころか、人がぶつかった形跡さえ一切見当たらないというのだ。
作業員たちが警察の事情聴取にこたえていた。見覚えのあるレスラー風の大男もいた。彼らはみな青ざめた顔をしていた。

その後ビルの建設はいったん中止されたが、一週間後に再開した。転落した作業員は結局発見されないままだったらしい。高層ビルはなおも生き物のように成長を続けている。