夜中の電話

そういえば夜中に電話がかかってくる夢をみたなあ、と思って、そのことについて考えていると、だんだんそれが夢ではなく現実のような気がしてきて、念のためにスマートフォンの着信履歴を確かめてみると、実際に夜中に着信はあった。そして僕はそれに応答していた。僕は電話が嫌いなので自分がそんなことを現実に行ったとはとても信じられなかったが、スマートフォンの画面に表示されているので、これは信じないわけにはいかない。
通話の相手は男だった。そのことは覚えている。僕はその正体不明の男と、ずいぶん長い時間話していた気がする。さほど深刻でない、だからといってただの世間話でもない、ある特殊な話題について、かなり専門的な、マニアックな意見を、お互いに交わしたような記憶がある。でも会話の具体的な内容はまるで思い出せない。
僕は知らない男とそうやって話しながら、ある感慨のようなものを覚えていた。つまり、「こうやって夜中に知らない人と電話で話すというのも、意外に悪くないものだなあ」、と思っていた。そうだ、僕はその通話がそんなに嫌ではなかった。夜中に素性のしれない謎の人物と会話をするというのは不思議で神秘的な体験である。ほとんど奇跡みたいに思える。今、覚醒した状態で考えてもそう思う。それで僕ははじめて電話という文化に対してポジティヴな印象を抱いた。