ものすごい雨

4月は憂鬱な季節。だから今日も会社を休んだ。こうやって欠勤を続けているといずれクビになるのだろうか、でもそれも悪くはない。
朝早く目覚めた僕は、ベッドの中で横になったまま、鳥の鳴き声を探っていた。鳥の声が聞こえてきたらベッドを出ようと思ったのだが、まだ耳には何も聞こえない。
そんなに長く眠ったわけでもないのに、不思議なほど目がさえていた。時刻は5時半、それは普段出勤する日の起床時刻よりもずっと早い。僕は鳥の声をあきらめてベッドから出た。そして顔を洗い歯を磨き、朝食にドーナツをふたつ食べて、コーヒーを飲んだ。
外がなかなか明るくならないので、カーテンを開けると、空は青みがかった暗い雲に覆われていた。高いところにある建物の屋根は空に押しつぶされている。
僕は窓辺の椅子に寝そべるような姿勢で腰かけ、そのまま空を眺めた。時間が経過し、すべてのものがはっきり見えるほど明るくなったあとでも、空はまだ黒っぽい灰色をしていた。あちこちからいろんな音が聞こえてくる。僕が住むアパートではこの時間が最も騒がしいのだ。彼らは朝の支度をしている。ドアが開閉する音や足音や話し声、食器の音や、衣服を着たり脱いだりするわずかな音まで、奇妙なほど鋭敏な今朝の僕の耳は、まるですぐそばで起こる音のようにクリアに聞きとっていた。それはやかましいほどだった。僕は耳をふさぐこともせずにじっと窓枠を見つめている。
身体のどこも動かしたくなかった。できれば死体のように硬直したかった。でもそんなことは無理だった。生きている人間が完璧に動きを止めることなどできない。人間の肉体には意思で制御できない部分が多すぎる。その事実は僕を驚かせ同時に苛立たせた。

溜息をつき、しばらく目を閉じてまた開くと、窓ガラスに水滴がついていた。時間は7時半だった。すでに世界は、社会は、世間は動きはじめている。干しっぱなしの雑巾が風に吹かれて踊っていた。僕はやるべきことを何一つ思いつかない。
雨は激しくなり、滝のようになった。景色は真っ白に塗りつぶされ、もはや家も道路も電柱も区別がつかない。雨音が分厚いホワイトノイズのようになって部屋を取り囲んでいた。その音のために僕の皮膚の表面はしびれるみたいにピリピリと震えていた。遠くでサイレンが鳴った。こんな天変地異みたいな大雨では、交通機関は全部ストップするだろうから、どっちにしても会社には行けなかった。すると何となくもったいない気分になって、ますます無気力になり、また目を閉じた。そうして僕は、何十億年も前に地球に海を作ったというあの1000年も降り続いた豪雨について思いをはせていたが、そのうちにそのまま眠ってしまったらしい。