謎の飛行物体

小さな光る物体が7分おきに窓の外を通過している。光を放つ飛び回るものとして僕は蛍を思い浮かべたが、それは明らかに蛍ではなかった。光は小さいけれどもLED電球のように強く、飛行の高度も軌跡も、そして窓の前に現れる7分という周期も、いずれも生き物ではありえないほど正確に同一だった。だからたぶん機械なのだろう。超小型ドローンとかそういう類の機械。なぜそんなものが家の周りを旋回しているのかはわからない。そんな話は聞いてないし、心当たりもない。今日の午後、部屋のカーテンを開けたとき、僕ははじめてその存在に気づいた。その前から飛び回っていたのかどうかは知らない。僕はめったにカーテンを開けない。

害をもたらすでもないし、迷惑というほどでもないのだから、無視してしまえばいいのだが、なぜか気になってしまう。僕はカーテンを閉じ、しばらく別のことをして過ごそうとしたが無理だった。何をしていてもあの光が頭にちらつく。
僕は柄の長いほうきを持ち出してきて、窓を開け放って待った。物体が現れたとき、それに向けて思い切りほうきを振り下ろした。先端が物体をかすめ、それと同時に光が消えた。手ごたえはまったくなかったけれども、そのあとどれだけ待っても物体は再び現れなかったので、何とか排除できたらしい、と思って、僕はとりあえず満足した。

しかし、ああ、次の日にもあの物体が窓の前を横切るる。昨日のほうきによる攻撃は、やはり失敗していたのか。確かに成功したことを示す根拠はなかった。ほうきは空を切ったのと同じ感触しかなかったし、あとで窓の下を調べたときにも、破片や残骸らしきものは見当たらなかった。それとも今度のは、昨日までのものとは別の、新しい物体なのだろうか? 見たところ昨日のものと違いはない。やはり小さな光をたたえて、正確に7分おきに窓の前を通過する。完全に同一の物体に見えた。
僕もまた、昨日と同じ行動をとった。ほうきを構えて物体を待ち構え、窓の前にやってきたところを叩き落そうとした。そして同じことが繰り返された。ほうきは当たったのか当たらなかったのかわからず、しかし物体はどこかに消え、それきり現れなくなる。僕はため息をつき、窓とカーテンを閉める。

夜、僕はなかなか眠れなかった。目を閉じると瞼の裏に小さな光がちらついて眠りを妨げるのだ。光る謎の飛行物体が飛び回るさまが、映像として記憶に刻印されてしまっていた。それを忘れることはおそらくもうできない。僕はそのことに苛立ち、絶望した。きっと明日になったらまたあの物体は何事もなかったように窓の外を飛び回っているのだろう。

窓とカーテンを閉めて、ベッドに戻った。眠るまでにはかなりの時間が必要だった。