形象を捨てる

袋が木の枝にぶら下がっていた。袋は絶えずもぞもぞと動いていた。ところどころ飛び出したり膨らんだり、またへこんだりしていた。中に生き物が閉じ込められていて、それが袋から脱出しようとして四肢をよじらせているのだと思った。袋は破れそうにもなく、僕は助け出してやろうと思って手を伸ばしたのだが、そのときようやく気づいた。それは袋などではなかった。布だと思いこんでいた材質は布ではなく、だからと言って何なのかはわからないが、とにかく人工のものではなかった。その表面はどことなく爬虫類の皮膚をおもわせた。蛇とかイグアナとかそうした生き物の、滑らかでぬめったような皮膚。中に生き物が閉じ込められているわけではなく、袋状の物体そのものが、あちこちを隆起させたり突出させたりへこませたり歪めたりしていたのだった。つまりその袋に似た物体は生きていたのだった。

僕は伸ばした手をひっこめた。袋状の生き物は、まるで自らのもとの形象を捨て去り、別の形に変化しようとしているかのようだった。その異常な動きは、明らかにもがき苦しむもの動きで、それはなぜか僕に悲しみを呼び覚ました。あるものが別のものに変形することなど不可能なのだ。不可能と言い切ってもいいほど、絶望的に困難なのだ。袋状の生き物の動きは僕にそのことを思い知らせた。僕はそれで悲しくなったのだと思う。