寂しい風景

寂しい風景を見つけると、必ず彼はそれを絵に描いた。そうやって描くことで彼は気に入った風景を個人的に収集していた。これまでに描いた絵はすでに相当な枚数に達している。彼が住む場所として選ぶのはいつも、寂しい、荒れ果てた、見捨てられた土地ばかりだった。現在彼が住んでいるのもやはり寂れた土地である。人口は極端に少なく、家屋の大半は倒壊しているか空き家だった。人間が暮らすのに適した土地ではないのだ。年に一度は必ずこの地方を襲う竜巻のために、街はたびたび破壊され、多くの人々が命を落としてきた。多くの住人がよそへ逃げ出し、今なおここにとどまっているのは、すでに人生をあきらめた人たちばかりだった。居残った人々はみな死を待ち受けていた。いつ死んでもいいと思っていた。だからこそあえて危険な土地に住み続けていた。竜巻に呑まれて死ぬのは死に方としては上出来だと彼らは考えていた。
そんな絶望した土地のことだから、都市の開発とか修復とかいった動きは起きない。そんなわけで絶望的な土地に絶望的な風景が生まれる。おかげで彼は退屈せずに済んでいた。もちろん彼もまた死を待ち受ける人々のうちの一人である。この土地に移り住んで以来、彼は数えきれないほど描いた。どの景色をどの角度から切り取っても彼にとって理想的な構図になる。乾いた灰色の大地に一本だけ力なくたつ黒く乾いた死にかけの樹、半分壊れた看板、無人のビルの割れた窓、空き家の奥の暗闇、草に覆われた枯れ井戸……

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そして秋が来て、竜巻の季節になった。今度の竜巻は過去最大級のものだとニュースは伝えていた。竜巻を待ち望んでいたはずの人々のうちにも、何人かは心変わりして土地を出ていく者もいた。ただでさえ人口の少なかった土地はさらに人けが無くなった。すでに相当な強い風が吹きはじめている丘の上に立って、彼は町を見下ろしながら静かに胸を高鳴らせていた。人の気配を失った土地は普段よりもさらに寂しく、さらに荒涼として映った。
彼はさっそくその場にしゃがみこんでペンを走らせはじめた。風にあおられて翻ろうとするスケッチブックを手で押さえながら、滅びかけの町を夢中になって描いた。