僕たちは爆弾が降る街で再会した

再会するなら偶然会うのがいい、と思っていた。SNSを通じてなどもってのほかだし、同窓会とかでもなく、たとえば昔通った懐かしい道端で、街角で、こっちだけ気づいて向こうは気づかずにすれ違ったり、あるいは両方とも気づいていながら、なぜかわざとお互いに無視したり、あるいはどこかの店内でばったり出くわしたり、たまたま入ったお店で働いているところを見かけたりとか、そういうのがいい、と考えていた。そしてある日、僕はその望み通りに、偶然にばったり再会した。僕らはおそらく同時にお互いに気づき同時に思い出した。僕らは無言で目くばせしただけだった。何も言わなかった。そして言葉を発したところで、おそらく届かなかっただろう。あたりは様々な轟音で満ちておりとても人と人がゆっくり話し合える状況ではなかった。僕らはただ視線を交わしただけ、でも長らくぶりの再会を喜んでいた。無表情に見える彼女の目にも喜びの色が浮かんでいた。そうだ、僕がその色を見逃すことはない。いつも彼女の感情はそんな風に瞳の表面に一瞬、わずかにだけ浮かぶものだった。その感情の表出は、文字通りほんの一瞬で、直後にすぐ近くで鳴り響いた爆発音によって消えてしまった。僕らは我に返った。あちこちから悲鳴が僕らを取り囲むようにあがった。彼女の背後では火柱が燃え盛っている。僕だって危うく悲鳴を上げるところではあった。雨のように爆弾が降り注ぐ街の一角で、そのようにして我々の再会は果たされた。状況は悲劇的だったが、でも確かにそれは偶然の、運命的な再会であり、僕の望みは一応はかなったわけだ。そのことは祝福したっていいだろう。我々は一瞬目くばせを交わしただけで、言葉を発するどころか、笑顔を浮かべる余裕すらなかったけれども、その間、僕は確かに幸福を感じていた。かつての平和で満ち足りた日々を思い出し、当時の心の震えや、感情のざわめきのようなものをよみがえらせていた。そして僕はとても久しぶりに、未来に何かまだ明るいものが見出せるのではないか、そのことを信じてもいいのではないか、という気分になっていた。それは希望という言葉で表現しうる感情だった。希望、そうだ、僕らは爆風が吹き荒れる崩壊した都市の真ん中で、とっくの昔にどこかに捨て去った、あるいはある強大な力によって強制的に廃棄させられてしまったその聖なる言葉を思い出していたのだ。生き延びなくてはならないと思ったし、生き延びることができる、と信じることもできそうだった。

しかし僕と彼女との間に一瞬だけ復活した細い糸はまたすぐに断ち切られてしまった。僕らは手を触れられる距離にいて、物理的な意味では、二人の間を隔てるものは何もなかった。それでも僕らにはその場で共にひと時を過ごす時間も余裕もなかった。それぞれ一刻を争う事情のために、すぐにその場を離れなくてはならなかった。またしても環境が我々を引き裂いたのだ。僕らはすれ違うだけで別れた。僕らが別れ際にお互いに願ったことは同じだったはずだ。このおぞましい暴力の展示が終わる日が来れば、その願いは叶えられるかもしれない。いや、叶えなくてはならない、……誰にも聞こえない声で僕はそうつぶやいていた。するとまたすぐそばで爆発が起こった。