荒廃した街にて

窓からは街並みが見渡せる。でもそれはもう街並みと呼べるほど立派なものではない。建物は荒廃し、電柱は折れ、道路は焼け焦げ、ビルは崩れ落ちた。ほとんどのものはただの瓦礫に変わり果ててしまった。今僕がいる建物も、かつてはかなり大きな立派な家だったはずだが、もはや原形をとどめていない。それでも比較的崩壊の度合いが少ないので、風雨をしのぐことならできた。僕は運よくこの家を見つけて、ここに住み着いているのだ。

窓辺にはベンチがある。しなやかな曲線を描くクリーム色の大きなベンチ。見るからに高級なもので、かつての所有者の趣味の良さと収入の高さがうかがえる。そのベンチだけはなぜかほとんど無傷のままで残っていた。僕はそこに寝そべって多くの時間を過ごした。かつてはこの地域にも多くの人々が暮らしていたはずだ。でも今はもう誰もいない。みんな死んでしまった。地面のあちこちに白骨が転がっている。今も生き残っているだけで、よほどの強運の持ち主なのだ。ところで向かいの家には女が一人で住みついている。彼女もまた僕と同じように廃墟に住みついているらしい。別に美しくはない女だった。

流線型のベンチに横たわり、しばし僕は空想に浸る。自分は宇宙旅行の途中で宇宙船の故障のためにこの荒れ果てた星に不時着し、滞在を余儀なくされているのだ、と想像する。そう思って辺りを見回すと、本当に自分が地球ではないどこか見知らぬ星にいるような気がしてくる。例の女がまた向かいの窓に顔を出していた。彼女はこちらに目もくれず、どこか一点を見つめている。そうだ、彼女はこの荒れ果てた星の住人なのだ。僕は異星人である彼女と恋に落ちる。彼女は確かに美しくはないが、落ち着いていそうだし、頭もよさそうだから、道連れとしては悪くない。宇宙船が直ったら、僕は彼女を連れてこの星を去る。そしてどこか平和な別の星をみつけて、そこで二人きりで平和に幸福に暮らすのだ。……それで船は、いつ直るのだろう?そもそも直る見込みなどあるのだろうか。僕は永遠にこの荒廃した街に閉じ込められたままなのではないか。そんなことを考えるうち、やがて僕は思い出すことになる。宇宙船などどこにもないこと、自分がいるこの場所はまぎれもない地球であることを。僕は目を閉じて眠ろうとした。今度は夢の中へと逃げ込むために。