春の瞼

ぼろぼろの身体を引きずって、険しい坂道をついに登り切ったとき、ある眩い色彩が両目を、槍のように貫いた。それは彼方に広がる海の色だった。突如として眼前に出現した海は不自然なほど青く、見つめるうちにさらにその青みを増していった。僕は思わず神を前にした人のようにその場にひざまずいていた。そしてその青色をまるごと飲み干したい気分だったが、それはどうしても手の届かない遠くにあった。
ナイフのように光る水平線から、柱のように太い睫毛が何本も伸びている。見上げると空に薄く虹のように大きな弧が浮かび上がっていた。瞼がそこにあるのだ。しかるべき時が来ればその巨大な瞼は持ち上がり、水平線との境目に瞳を覗かせるのだろう。しかしいまはまだそれはかたく閉じられている。

どこからともなく天使たち👼👼がやってきて、瞼に向けて矢を放った。分厚い表皮は吸い込むように柔らかく矢の束を受け止め、傷つくこともなく、血の一滴さえ流れなかった。天使たちは慌てて逃げ帰った。

それからどれほどの時間が過ぎたのか、ひざまずいた両膝が震えていた。地面が揺れているのだった。水平線と空の境目に亀裂のような細い線が生じ、それは少しずつ広がりつつあった。あの瞼が開こうとしていて、その動きが地面を揺らしていたのだった。さらに少しだけ広がった隙間から、角膜の一部が覗いている。その目に浮かぶ穏やかな色合いには見覚えがある。いずれ地表にまた降り注ぐことになるあのあたたかな光と同じ色だった。しかし眠たげな瞼はまだ開ききることはなく、すぐにまたゆっくりと重々しく閉じられてしまった。一瞬だけ地表を包んだ予感は消え、地面の揺れも止み、すべては元通りになった。無理もない、誰だって眠りを妨げられたくはない。

そのあと、僕が再び立ち上がって歩き出すまでには、ずいぶん長い時間が必要だった。