甘い痛み

彼はクセナキスの音楽を聴きながら泣いている。その手の音楽を聴くとき、彼はいつも胸を棘で刺されるような痛みを覚え、その痛みが涙を流させる。まるで胸の奥にウニに似た生き物が潜んでいて、それが難解な現代音楽を聴くときに限って姿を現して自由に動き出し、その鋭く尖った棘で何度も、執拗に胸の奥を刺しているみたいだった。

そこにあるのが痛みだけだったら、おそらく涙を流すまでには至らなかったはずだ。痛みとともに、傷口からあたたかい金色の液体が流れ出て、全身に染みわたってゆくようようで、その感覚は彼を甘美な陶酔で満たした。だからこそ、痛みがあまりに鋭く、連続して襲うようなときでさえ、彼は音楽を止めようとはしなかった。そして涙は自然とこぼれ出るのだった。